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カーボンナノチューブを効率良く光らせる新たなメカニズムを発見-希少元素を使わず常温で動作するナノサイズの量子光素子の実現に期待-

2013年7月8日


左から宮内研究員、松田教授

 宮内雄平 科学技術振興機構(JST)さきがけ研究員(エネルギー理工学研究所特任准教授)、松田一成 同教授、東京大学からなる研究チームは、将来のナノメートルサイズの量子光・電子デバイスへの応用が期待されているカーボンナノチューブを、従来よりも桁違いに効率良く光らせる新たなメカニズムを世界にさきがけて見出しました。

 本研究成果は、2013年7月7日(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Photonics」に掲載されました。 

概要

 カーボンナノチューブは、炭素原子のシート1層(グラフェン)を直径わずか1ナノメートル程度(髪の毛の10万分の1程度)の円筒状に丸めた細線状のナノ材料(量子細線)です。極限的に細い量子細線であるカーボンナノチューブは、光をあてたり電流を流すことでエネルギーを与えると近赤外の光を発する(発光する)ことが知られており、将来のナノサイズの光ファイバー通信用省エネルギー光源や高感度な光検出器等への応用が期待されています。しかし、通常、カーボンナノチューブが発光する効率は非常に低く(約1%程度)、実用化のためには、大幅にその効率を上げる(明るくする)ことが強く求められていました。

 今回、研究グループは、長さ数百ナノメートルのカーボンナノチューブ「量子細線」上に約1個という非常に希薄な割合で、電子を局所的に閉じ込める役割を担う「特異点」(量子ドット)を作ることに成功し、その発光の効率を調べました。その結果、常温において特異点(量子ドット)部分は、カーボンナノチューブ固有の細線部分(約1%程度)と比べ、約20倍以上の桁違いに高い効率で発光(約18%程度)していることを見出しました。このことは、カーボンナノチューブ量子細線上への量子ドットの導入により、カーボンナノチューブ固有の性質を超える非常に高い発光効率を達成できることを示しており、従来の低い効率の壁を打ち破るブレイクスルーになるものと期待されます。カーボンナノチューブは環境負荷が小さく、非常にありふれた元素である炭素でできているため、本成果により将来的には、光ファイバー通信用の高効率な光源などを、これまで必須であったレアメタルやレアアースなどの希少元素を一切用いることなく作れるようになると期待されます。さらに、極限的に細いカーボンナノチューブ量子細線上に埋め込まれた明るい特異点(量子ドット)のユニークな性質を利用することで、これまで液体ヘリウム温度(-269度)のような極低温の世界でしか実現できなかった、電子の波としての性質を利用した新しい量子光機能や素子を、エネルギーを大量に消費する冷却装置を使わず常温で実現することにもつながると期待されます。

背景

 カーボンナノチューブは、光ファイバー通信に使われている近赤外光領域(通信帯域)の波長で、電極をつなげて光らせることができることから、将来のナノメートルサイズの微小な量子光機能素子としての応用が期待されています。しかしながら、カーボンナノチューブの発光の効率は、その極めて細長い細線状の形(1次元性)に固有の原因により低く制限されており(通常約1%程度)、応用に向けて効率の大幅な向上が強く求められていました。

研究手法・成果

 カーボンナノチューブが光を吸収すると、光のエネルギーが電子のエネルギーに変換され、2ナノメートル程度の空間的広がりを持つ励起状態のかたまり(これを励起子と呼びます)が形成されることが知られています。励起子は、そのまま放っておけばある一定の割合(確率)で光を放ち(発光し)、消滅します。しかし近年の研究により、ほとんどの励起子は、量子細線であるカーボンナノチューブ上を素早く動きまわり、すぐに端や欠陥などの「不完全な点」に衝突して発光せずに消えてしまうことが明らかになってきていました。そのような状況では、応用上求められている高い発光効率を実現するのは原理的に困難です。そこで今回研究グループは、カーボンナノチューブ量子細線上に、励起子と欠陥などの不完全な点との衝突を防ぐ「避難所」となるような特異点(量子ドット)を用意し、そこに励起子を閉じ込めて(動けないようにして)から光らせることを考えました。図1に、そのような避難所となる量子ドットが埋め込まれたカーボンナノチューブの概念図を示します。移動する青いスポットが、カーボンナノチューブ上を動く固有の励起子を、赤いスポットはカーボンナノチューブの固有部分とは全く性質の異なる0次元的な量子ドット状態を表しています。


図1:(上)量子ドット状態(赤いスポット)を導入したカーボンナノチューブと、カーボンナノチューブ固有部分の上を移動する励起子(青いスポット)の模式図。(下)量子ドット(赤いスポット)に励起子が捉えられて明るく発光する様子の模式図

 今回の研究では、励起子がカーボンナノチューブ量子細線上に作られた量子ドットに閉じ込められると、非常に明るく光る(発光する)ようになることがわかりました。発光する量子ドットは、カーボンナノチューブの壁にオゾン(O3)分子を作用させる方法で、酸素原子を人工的に埋め込むことで作製しました。この方法は以前から知られていましたが、本研究では、カーボンナノチューブ1本あたり、わずか1個程度の非常に希薄な割合に制御して量子ドットを作ることに初めて成功しました。図2(a)は、量子ドットを導入する前後での、カーボンナノチューブからの発光スペクトルの変化を示しています。青い矢印で示した部分がカーボンナノチューブ固有の細線上の励起子による発光ピーク、オレンジ色の矢印で示した部分が量子ドットに閉じ込められた励起子の発光ピークを表しています。図2(b)は、量子ドットの数を増やしていった場合の発光スペクトルの変化を示しています。図3は、カーボンナノチューブ上の量子ドットの数の増加に伴う、量子ドットからの発光の強度の増加する量(縦軸)と、細線部分からの発光強度の減少量(横軸)の関係をプロットしています。図3に示すように、二つの量には明確な相関関係があることがわかりました。詳しい解析により、図3の比例関係における直線の傾きは、細線上の固有の励起子とドットに閉じ込められた励起子の発光の効率の比に比例することがわかりました。この相関関係から、量子ドットの励起子の発光効率は、細線上の励起子の少なくとも約18倍(約18%)であることが突き止められました。


図2:(a)カーボンナノチューブ固有の近赤外発光スペクトル(黒線)と、量子ドット導入後の発光スペクトル(赤線)の比較。量子ドットの導入により、固有の発光ピークが減少するとともに、左側に大きな発光ピークが現れている。(b)量子ドットの数を増やしていったときの、発光スペクトルの変化。量子ドットの数が多い(右側)ほど、固有の発光ピーク強度が大きく減少し、量子ドットからの発光ピーク強度が大きくなっている。


図3:カーボンナノチューブ固有の細線部分からの発光強度減少量(横軸)と、量子ドット部分からの発光強度増加量(縦軸)の相関関係のプロット。それぞれ、量子ドット導入前の固有ピークの発光強度で規格化してある。二つの量の間に明確な比例関係があることがわかる。

 研究グループはさらに、この桁違いに高い発光効率の原因を詳しく探るため、時間分解発光測定と温度依存発光測定を行いました。その結果、量子ドットにおける約18倍もの発光増強は、(1)励起子が量子ドットに閉じこもり欠陥と衝突せずに済むことで、発光せずに消えてしまう確率が約6分の1に減少したこと(2)量子ドットの中で、励起子が光に変換される確率が約3倍に増えたことの相乗効果に由来することがわかりました。特に、後者は、励起子が量子ドットに閉じ込められることで、その「次元性(運動の自由度)」と「空間的広がり」そのものが変化し、1次元量子細線としてのカーボンナノチューブ固有の限界を超えて、発光の効率が高められたことを示す画期的な発見と言えます。

波及効果

 本研究により、量子細線であるカーボンナノチューブ上に非常にわずかな特異点(量子ドット)を導入することで、カーボンナノチューブ固有の限界を超える高い発光の効率を実現できることが示されました。今回の研究成果は、カーボンナノチューブの光応用に向けた大きな課題であった、低い発光効率の壁を打ち破るブレイクスルーになるものと期待されます。これにより、将来的には、光ファイバー通信のための光機能素子を作るために必要であったレアアースやレアメタルのような希少元素を一切用いることなく、環境負荷が小さく、どこにでもある元素である炭素を使って、ナノサイズの省エネルギーかつ高効率な近赤外光源などの新しい光機能素子が作れるようになるものと期待されます。さらに、常温で安定なカーボンナノチューブ上の量子ドット状態は、1次元のカーボンナノチューブ量子細線に、その固有の性質とは異なる0次元的(量子ドット的)な新たな光機能をもたらすと期待されます。将来的にはこれらの機能を利用し、エネルギー消費の大きな冷却装置を必要せずに常温で動作させることができる、量子暗号通信用の通信帯域での単一光子発生素子などの新しい量子光機能素子の実現にも繋がると考えられます。

今後の予定

 今後は、今回得られた研究成果を基礎として、カーボンナノチューブ上により明るく光る量子ドット状態を作るにはどうすればよいのか、原子レベルでの設計を行い、理想的な量子ドットの構造とその作製法を見出したいと考えています。また将来のデバイス応用に向け、電極に繋がった1本のカーボンナノチューブ上の狙った場所に一つだけ量子ドットを作り、それを光らせる技術の開発を進めてく予定です。このような技術は、常温で動作する光ファイバー通信帯域での単一光子発生素子の実現に必要不可欠です。また、今回作製に成功した量子ドット状態を有するカーボンナノチューブは、極少数の量子ドット(0次元電子系)がシームレスに量子細線(1次元電子系)に埋め込まれた、これまでにない理想的なナノサイズのハイブリッド構造といえます。このような新しい材料の性質は基礎的な材料科学の観点からみても大変興味深く、これを舞台に異なる次元性を持つ電子状態の間の相互作用が生み出す、さまざまな未知の物理現象を探っていくことができると考えています。

本研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)の「ナノシステムと機能創発」研究領域(長田義仁研究総括)における課題の一環として行われました。

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/nphoton.2013.179

Miyauchi Yuhei, Iwamura Munechiyo, Mouri Shinichiro, Kawazoe Tadashi, Ohtsu Motoichi, Matsuda Kazunari.
Brightening of excitons in carbon nanotubes on dimensionality modification.
Nature Photonics, 2013/07/07/online

 

  • 京都新聞(7月8日 22面)、日刊工業新聞(7月8日 15面)および日本経済新聞(7月16日 11面)に掲載されました。