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東北地方太平洋沖地震に伴う火山の沈降を検出 -巨大地震が火山活動に与える影響の解明に向けて-

2013年7月1日

 高田陽一郎 防災研究所助教と福島洋 同助教の研究グループは共同研究で、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(Mw 9.0)が引き起こした広域地殻変動により、東北地方の複数の火山地域(秋田駒ヶ岳・栗駒・蔵王・吾妻・那須)が局所的に5~15cm程度沈降したことを発見しました。これらの局所的沈降の原因は、地下浅部に広く分布する高温領域に変形が集中した結果と考えられます。

 本研究成果は、2013年7月1日に英国科学誌「Nature Geoscience」誌に掲載されました。

概要

 2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(Mw 9.0、以下東北地震)が引き起こした地殻変動により、東北地方の複数の火山地域(秋田駒ケ岳・栗駒・蔵王・吾妻・那須)で局所的な沈降が発生しました。これらの火山地域の地下浅部に高温岩体が広く分布しており、地震に伴いこの高温領域に変形が集中して沈降が引き起こされたと考えられます。2010年2月27日にチリで発生したMaule地震(Mw 8.8)に伴い、やはり火山地域が局所的に沈降したことを米国コーネル大学のMatthew Pritchard博士らが発見し、本研究グループの論文と同時にNature Geoscience誌に掲載されました。さらに、日本とチリの両方で巨大地震に伴い火山が沈降したことを受けて、サウジアラビアKing Abdullah大学のSigurjon Jonsson博士が同誌に評論を掲載しています。

背景

 2011年3月11日に発生した東北地震は東日本全体に大きな地殻変動と、多くの誘発地震を引き起こしました。しかし今のところ火山噴火は引き起こしていません。火山はどのような影響を受けたのでしょうか。この疑問に答えるべく宇宙測地の技術を用いて東日本の地殻変動を面的に調べました。

研究手法・成果

 地殻変動を調べるために、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2006年に打ち上げ、2011年5月まで運用された陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)に搭載された合成開口レーダーPALSARが地震前後に取得した画像を用いて、合成開口レーダー干渉法(InSAR)と呼ばれる解析を行いました。InSARは天候や昼夜に関係なく人工衛星と地面を結ぶ距離の変化を面的に捉えることができます。

 InSAR解析の結果から東北地震の断層すべりによる地殻変動成分を除去したところ、火山地域が地震に伴い沈降していたことを発見しました(図1a)。沈降した火山地域は北から秋田駒ケ岳・栗駒・蔵王・吾妻・那須です(図1b-f)。沈降域は南北に長い楕円形をしており、長軸方向に20~30km程度と広範囲です。中心での沈降の大きさは5~15cm程度です。


図1 InSAR解析の結果。aは東日本全体の解析結果。ピンク色の領域は東北地震に伴う断層すベり域。b-fは各沈降域の拡大図。赤から黄の順番で沈降量が大きくなります。

 

 国土地理院が運用しているGNSS(GPS)連続観測システム(GEONET)の電子基準点のデータも解析したところ、InSAR解析の結果と調和的な沈降を記録しており、さらにその沈降は地震と同時に起こっていたことが明らかとなりました(図2)。


図2 吾妻山近傍の電子基準点の上下変動時系列。InSARで検出した沈降域は、緑で示した基準点のみを含んでいますが、この点のみが東北地震時に沈降していることが分かります。

 

 この沈降域は、熱流量が大きい領域・泉温が高い領域、およびカルデラの分布と良く一致しています(図3)。また、カルデラの周囲には高温の深成岩が存在することが分かっており、そのような高温の深成岩の中心には、マグマだまりが存在すると考えられます。一般に温度が高くなると岩石は変形しやすくなることから、沈降した火山地域の下には強度が低い高温岩体が広く分布しており、東北地震に伴う東西引張の力の変化を受けて変形し、地表を沈降させたと考えられます。


図3 栗駒山近傍での沈降域(赤から黄色)、熱流量(小丸)、カルデラ(線)の分布。熱流量は沈降量が大きい領域(黄色)に向かって上昇します。沈降域はカルデラの集中域と一致しています。

 

 本研究グループの考える沈降メカニズムの模式図を図4に示します。このモデルに基づき、コンピュータシミュレーションを行ったところ、観測データを大変よく説明できました。この描像を今後より精緻にして行くためには、複合的な観測と人工衛星による継続的な観測が不可欠です。


図4、沈降域の地下構造と地震による沈降メカニズムの模式図。高温で力学的に弱い(せん断応力を保持できない)領域を楕円体で表現し、その位置と形状を観測データから推定しました。赤矢印は地震に伴う力の変化です。地震により東西方向に引張力が働き、力学的に弱い高温領域は黒矢印の通りに変形します。

波及効果

 巨大地震と火山活動の関係は未だに明らかになっていません。今回の発見で、火山は噴火や群発地震を起こさなくても巨大地震による影響を受けていることが明らかになりました。また、カルデラなど地熱活動を活発化させる要素が沈降と深く関係することも明らかになりました。日本とチリで極めて類似した現象が見られたことから、巨大地震が火山地帯に沈降を引き起こすことは普遍的である可能性が高いです。しかし、Pritchard博士らは浅部地熱流体の移動を最も有力な沈降メカニズムと考えていることからもわかる通り、メカニズムの確定的理解には至っていません。今回見つかった現象は、今後広く火山における巨大地震の影響を理解していく上でのマイルストーンとなります。

今後の予定

 「だいち」は2011年4月に電源トラブルに見舞われ、同年5月に運用を停止しました。しかし、今後も継続機のデータなどを利用することにより、火山地域の地下構造や力学的応答特性に関する理解を深めたいと思います。

 

  • PALSARデータの所有権は経済産業省およびJAXAにあり、地震WGおよびPIXELの枠組みのもとでJAXAから提供されました。
  • 数値地図およびGEONETデータは国土地理院から提供を受けました。
  • 本研究は日本学術振興会 科学研究費補助金 若手Bにより資金を受けました。

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ngeo1857

Takada Youichiro, Fukushima Yo.
Volcanic subsidence triggered by the 2011 Tohoku earthquake in Japan.
Nature Geoscience, 2013/06/30/online

用語解説

合成開口レーダー

対象物にレーダーを照射しながら高速移動することで高い空間分解能を得る技術

InSAR

「いんさー」と読む。異なる時期に得られた合成開口レーダー画像の位相差を取ることで、極めて高い空間分解能で地殻変動を検知する技術

せん断応力

物体内部の面の平行方向に働く応力

 

  • 朝日新聞(7月1日 34面)、京都新聞(7月1日 3面)、産経新聞(7月1日 22面)および毎日新聞(7月1日 2面)に掲載されました。