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膵島細胞と間葉系幹細胞の融合細胞を用いた糖尿病治療実験に成功-新しい重症糖尿病治療法の開発に期待-

2013年5月29日


左から角准教授、柳井研修員

 角昭一郎 再生医科学研究所准教授、柳井伍一 同研修員らの研究グループは、膵島細胞と間葉系幹細胞の融合細胞が糖尿病治療に有望であることを世界で初めて発見しました。

 本研究成果は、2013年5月28日付けの「PLOS ONE」オンライン版で公開されました。

概要

 ラットの膵島細胞と間葉系幹細胞の電気的細胞融合法を確立し、この融合細胞を用いて研究を行いました。一般に膵島細胞は通常の培養状態では数日で機能を失いますが、融合細胞は20日の培養後も膵島機能(ブドウ糖反応性インスリン分泌)を維持しました。同系糖尿病ラットへの移植実験では、単独あるいは間葉系幹細胞と混合しても治療効果が無い量(1,000個)の膵島から作成した融合細胞の移植により、次第に増強する移植効果(血糖低下)が3ヶ月にわたって確認されました。また、遺伝子発現を解析したところ、融合細胞では膵島細胞の核と間葉系幹細胞の核が相互にリプログラミングされており、膵島細胞の内分泌機能と間葉系幹細胞の強靱さを併せ持つ細胞を作成することが可能となりました。この研究成果を活用すれば、より少量の膵島をより効果的に利用する、従来の膵島移植に代わる、新しい重症糖尿病治療法が開発できるものと期待されます。

背景

 低侵襲の重症糖尿病治療法として期待される膵島移植ですが、従来の方法では移植早期に多くの膵島細胞が失われ、一人分の膵島でインスリン治療が不要になる確率は低いものでした。また、複数回の移植によってインスリン治療が不要となった場合でも、この状態を長期に維持することは容易ではありませんでした。このような問題を解決するために各種の方法が検討されていますが、炎症・免疫制御機能や血管新生誘導機能、アポトーシス制御機能などを有する間葉系幹細胞を膵島と共に移植することで、膵島移植の成績を向上させる試みも報告されています。

研究手法・成果

 ラットの膵臓から膵島を単離し、これをさらに単細胞に分散させたものと、ラットあるいはマウスの骨髄を培養して作成した間葉系幹細胞を混合し、電気的に細胞融合して融合細胞を作成しました。融合細胞は培養20日後もブドウ糖反応性インスリン分泌能を発揮しましたが、この時期には膵島単独あるいは膵島細胞と間葉系幹細胞とを共培養したものではこの機能は廃絶していました。

 ストレプトゾトシンの注射によって糖尿病とした同系ラットを用いて糖尿病治療実験を行いました。2,000個の膵島を腎被膜下に移植すると、血糖はほぼ正常値まで低下しましたが、同様の膵島1,000個では、膵島単独あるいは膵島と間葉系幹細胞との共移植では血糖改善効果が認められませんでした。一方、1,000個の膵島から作成した融合細胞を移植したところ、血糖は少しずつ持続的に低下し、3ヶ月後には正常値には至らないものの、他の糖尿病ラットに比べて明らかに低い値まで低下しました(下図参照)。


※上図は、今回発表の論文(DOI (10.1371/journal.pone.0064499))より引用

 ラット膵島細胞とマウス間葉系幹細胞の融合細胞を作成して遺伝子発現を検討したところ、融合細胞ではマウスのインスリンやラットの間葉系幹細胞特異的遺伝子が新たに発現しました。この結果は、融合細胞で間葉系幹細胞核が膵島細胞様にリプログラミングされる一方、膵島細胞の核も間葉系幹細胞様にリプログラミングされることを示しています。この結果から、融合細胞は、膵島機能を維持しつつ間葉系幹細胞の特徴も有する新たな細胞であると解釈することができます。

波及効果

 本研究の結果から、より少量の膵島細胞を利用して、より効果的な糖尿病治療が行える可能性が見えてきました。具体的には、ドナー一人分の単離膵島を用いて複数人を治療できる細胞資源を作成できる可能性があり、また、移植後の長期成績においても著明な改善が期待できると考えられます。再生医療推進法の成立によって、我が国の再生医療環境が劇的に改善することが期待されますが、膵島細胞と間葉系幹細胞との細胞融合の臨床応用に道が拓ければ、これを作成する技術は再生医療における画期的なイノベーションの一つとなり得るのではないかと期待されます。

今後の予定

 融合細胞の細胞生物学的検討を深化させて、膵島機能維持の機構や腫瘍形成等の危険性を評価する研究が必要です。ブタなど大動物でも今回と同様の検討を行った後に、将来の臨床応用に向けた研究を展開したいと考えます。

用語解説

ブドウ糖反応性インスリン分泌

膵島細胞の非常に重要な機能で、血糖(血中のブドウ糖濃度)が高くなるとインスリンを分泌するが低い状態では分泌しない働きのこと。低いブドウ糖濃度の培養液で細胞を1時間程度培養し、培養液を高いブドウ糖濃度に交換して1時間、さらに低い培養液に換えて1時間培養してこれらの培養液中に放出されたインスリン量を測定する。

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0064499

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/174251

Yanai Goichi, Hayashi Takashi, Zhi Qi, Yang Kai-Chiang, Shirouzu Yasumasa, Shimabukuro Takashi, Hiura Akihito, Inoue Kazutomo, Sumi Shoichiro.
Electrofusion of Mesenchymal Stem Cells and Islet Cells for Diabetes Therapy: A Rat Model.
PLoS ONE 8(5): e64499. (2013)

 

  • 朝日新聞(5月30日夕刊 9面)、京都新聞(5月29日夕刊 8面)、産経新聞(5月29日夕刊 10面)、中日新聞(5月29日夕刊 3面)、日本経済新聞(5月29日夕刊 14面)、毎日新聞(5月29日 8面)および読売新聞(7月8日 16面)に掲載されました。