bFGF含有ゼラチンハイドロゲルを用いた特発性大腿骨頭壊死症の臨床試験を開始

bFGF含有ゼラチンハイドロゲルを用いた特発性大腿骨頭壊死症の臨床試験を開始

2013年4月8日

 秋山治彦 医学部附属病院整形外科准教授、黒田隆 同助教らは、難病である特発性大腿骨頭壊死症に対して、骨再生を促す作用のある塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)含有ゼラチンハイドロゲルを壊死した骨頭内に埋入する臨床試験において、1例目の手術を実施しました。手術は腰椎麻酔下で、大腿部外側1cmの皮切で経皮的にbFGF含有ゼラチンハイドロゲルを壊死した骨頭内に埋入するもので、30分の手術時間で無事に終了しました。患者は、手術当日から車椅子移動が可能であり、翌日より歩行を開始され、術後5日目に独歩にて退院、現在経過観察中です。

概要

 当該臨床試験は、医学部附属病院医の倫理委員会の承認を得て、整形外科と探索医療センター(現 臨床研究総合センター)を中心とした共同チームにおいて、2013年3月より登録を開始していたものです。今後さらに骨頭圧潰前の9名の患者を対象とし、安全性と有効性を検証していく予定で、早期の臨床応用、標準的治療となることを目指しています。特発性大腿骨頭壊死症は、大腿骨頭の一部の血の流れが悪くなることにより壊死に陥り、骨が潰れて、股関節の機能が著しく損なわれる原因不明の難病で、厚生労働省の難治性疾患に指定されています。特発性大腿骨頭壊死症は国内で毎年3000人の新規罹患があり、その約半数がステロイド性です。SLE(全身性エリテマトーデス)などの膠原病の治療でステロイド大量療法を受けられた方に生じやすく、20代や30代の比較的若い世代の方が多く含まれるのも特徴です。

今後の展望

 これまで、壊死した骨を再生させる手術は血管柄付き骨移植術など侵襲が大きく、手術難度も高いものがほとんどで、入院期間も長期間必要でしたが、今回の治療方法は低侵襲の再生医療である点が大きな特徴です。手術は小さな傷で、短時間で行うことができ、入院期間も4~5日です。bFGF含有ゼラチンハイドロゲルが骨再生を促すことはヒトの骨折の骨癒合期間の短縮で証明されており、大腿骨頭壊死症においても動物(家兎)では副主任研究者らの研究によって骨頭壊死の圧潰を防止する効果が示され、ヒトへの応用が期待されていました。

 今回の圧潰前の大腿骨頭壊死症に対するbFGF含有ゼラチンハイドロゲルの投与によって骨再生が起きれば、積極的な低侵襲手術法として多くの患者、多くの施設で実施されることが期待できます。将来的に人工股関節置換術を回避できる可能性があり、医療的、社会的な意義は非常に大きいものと考えられています。


(左上)ゼラチンハイドロゲルシート:bFGFをゼラチンハイドロゲルシートに含浸させ、体内に投与すると、徐々に分解され、その間、骨再生を促すbFGFの効果が持続します
(右上)手術プランニング画像:黄色の部分が骨頭の壊死領域、青線が予定の投与経路
(左下)術中写真:金属の筒の中を通してハイドロゲルを骨頭壊死部に埋入しているところ
(右下)術中のレントゲン画像:ハイドロゲルが骨頭壊死部に埋入されていることを確認した