ヒトをはじめとする哺乳類の頭蓋骨の進化的起源を解明

ヒトをはじめとする哺乳類の頭蓋骨の進化的起源を解明

2012年8月14日

 小薮大輔 総合博物館・日本学術振興会特別研究員(PD)は、ヒトを含む今日の哺乳類の頭蓋骨の進化的起源を新たに解明しました。

 本研究成果は米国科学アカデミー紀要(PNAS)の8月14日版に掲載されました。

研究の概要

 哺乳類の頭蓋骨は約20個の骨によって構成されています。一方、爬虫類や魚類の頭蓋骨は哺乳類よりはるかに多くの骨から構成されています。哺乳類のもつ独特の頭蓋骨は、哺乳類が祖先的な魚類や爬虫類から進化する過程で、頭蓋骨を構成する骨の数が減少し、構造を単純化することで誕生したとこれまで考えられてきました。特に、定説では哺乳類に至る系統では後頭部の幾つかの骨(頭頂間骨と板骨)が進化的に失われて哺乳類の頭骨が成立したとされてきました。しかし、ヒトやウシ、イヌなどの一部の哺乳類では頭頂間骨の存在が知られ、大半の哺乳類では確認できないのに、なぜこれらの動物だけに確認できるのかこれまで不明でした。

 本研究では、300種以上におよぶ現生哺乳類の胎子期の発生と化石記録を網羅的に分析したところ、定説では哺乳類では進化的に失われたとされてきた頭頂間骨が胎子期には全ての種の哺乳類で存在することが確認されました。つまり、祖先的な爬虫類から受け継がれた頭頂間骨はヒトやウシ、イヌだけでなく、すべての哺乳類に保存されていることが示されました。また、哺乳類で失われたとされてきた板骨も胎児期に全ての種の哺乳類で存在することが確認されました。多くの種では、頭頂間骨と板骨は胎子期に形成された後、成長にともなって隣接する上後頭骨にこれらの骨がすぐに癒合することが確認されました。一方、稀にヒトやウシ、イヌでは成長が進んでも頭頂間骨が上後頭骨に癒合しないため、これまでの学説が混乱してきたのだと考えられます。哺乳類の多くの種では存在しないとされてきた頭頂間骨と板骨ですが、胎児期の骨格を詳細に観察した結果から、これらの骨はすべての哺乳類で確かに存在することが結論付けられました。

 この事実は、祖先的な魚類が有していたとても古い骨である頭頂間骨と板骨が、今日の哺乳類においても失われることなく残存していることを示すものです。本研究は脊椎動物の骨格の進化に関する従来の定説を覆し、生物学の教科書を大きく書き換える画期的な成果です。

 また、本研究は国内外の自然史博物館で収蔵蓄積されてきた学術標本に基づいた研究であり、科学研究における博物館の存在意義の重要性を大きく示すものでもあります。


図1:さまざまな動物の胎子期における頭骨のCT画像(後頭部から見た図)

これまで多くの動物で頭頂間骨は存在しないと考えられてきましたが、胎子期の標本のCT画像を観察すると頭頂間骨(IP)が確認できます。


図2:オポッサム(A)、デグー(B)、マーラ(C)における頭頂間骨(IP)と板骨(LI)

板骨 (LI) は祖先的爬虫類から哺乳類が進化する過程で失われてきたとされてきましたが、胎子期の骨を詳細に観察するとその存在が確認できます。


図3:祖先的両生類ディアデクテスと祖先的爬虫類(単弓類)ティタノフォネウスと哺乳類の頭部(後頭部から見た図)の進化プロセス

ピンク色の骨が板骨、青色が頭頂間骨。板骨と頭頂間骨は哺乳類で失われることなく保存されていると考えられます。胎子期には確認できますが、成長にともなって後頭骨に完全に癒合してしまいます。つまり、従来「後頭骨」と呼称されてきた骨は真の「後頭骨」と「板骨」と「頭頂間骨」の複合体であることが示唆されます。

論文情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1208693109

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/159102

論文名

Paleontological and developmental evidence resolve the homology and dual embryonic origin of a mammalian skull bone, the interparietal

著者

Daisuke Koyabu(京都大学総合博物館)、Wolfgang Maier(ドイツ・チュービンゲン大学)、Marcelo R. Sánchez-Villagra(スイス・チューリッヒ大学)

掲載誌

Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS:米国科学アカデミー紀要)

 

  • 京都新聞(8月14日 23面)、産経新聞(8月14日 26面)および日刊工業新聞(8月15日 13面)に掲載されました。