100kW風車を搭載した浮体式洋上風力発電施設の洋上設置に成功 -系統連系を行う浮体式洋上風力発電施設としては国内初-

100kW風車を搭載した浮体式洋上風力発電施設の洋上設置に成功 -系統連系を行う浮体式洋上風力発電施設としては国内初-

2012年6月12日

 このたび、京都大学を含む環境省浮体式洋上風力発電実証事業委託業務の受託者グループは、系統連系を行う浮体式洋上風力発電施設としては国内初となる100kW風車を搭載した浮体式洋上風力発電施設の長崎県五島市椛島周辺海域での洋上設置を6月9~11日に実施し、これに成功しました。本成果は、本学が戸田建設株式会社、日本ヒューム株式会社、佐世保重工業株式会社とともに2009年9月に実施したハイブリッドスパー型10分の1モデルによる浮体式洋上風力発電プラットフォーム実海域実験の成功に引き続くもので、本学が代表となって受託した平成22年度環境省浮体式洋上風力発電実証事業における成果を踏まえて実施されたものです。

目的

 国内の中長期的な温室効果ガスの排出削減を進めるため、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー導入の推進がますます重要となっています。我が国は、排他的経済水域の面積が世界第6位の海洋国であり、洋上には風力発電の大きな導入ポテンシャルを有することが明らかになっています。また、洋上は風速が強く、その変動が少ないため、安定かつ効率的な発電が見込まれ、その実用化が期待されています。

 洋上風力発電のうち、水深が浅い海域には着床式が適していますが、導入ポテンシャルのより大きな比較的深い水深の海域に対応するためには浮体式を採用する必要があります。しかしながら、浮体式洋上風力発電は世界的にも実証段階であり、国内での導入事例もありません。

 このため、環境省では、我が国初となる2MW級の浮体式洋上風力発電実証機1基を実海域に設置することを目指して2010年度から実証事業を開始しており、受託者グループは、これまでに候補海域の選定(長崎県五島市椛島周辺)、環境影響調査や風力発電施設の設計・建造・設置に係る検討を実施してきました。

 今回の100kW風車を搭載する小規模試験機設置の目的は、環境影響や安全性に関する情報を収集して周辺地域関係者の安心感の醸成に努めるとともに、風や波による浮体の揺れが設計どおりになっているか、揺れる浮体に搭載された風車によっても計画どおりに発電できるか、等を検証した上で、2013年度に設置を予定している2MW級の浮体式洋上風力発電実証機の建造や風車制御にその成果を反映することにあります。

 なお、実証海域として選定した五島市椛島周辺海域は、気象・海象観測を通じて年平均風速約7.5m/s(海上60m)が見込める一方、有義波高1m以下の出現頻度が年間約89%と穏やかであることを確認しており、洋上風力発電に好適な自然環境条件を有しています。

特徴および形状寸法

 小規模試験機は、スパー型と呼ばれる、細長い円筒形状の浮体構造の上に、風車およびタワーが海上に突出して固定されている構造を基本としており、細長い円筒形は風や波が当たっても揺れにくいという利点を活かしています。この小規模試験機は、3本のチェーンで海底に係留されます。

 浮体構造としては、浮体上部には鋼、下部にはコンクリートを使用する、本学・戸田建設グループによって開発された「ハイブリッドスパー型」と呼ばれる形式を採用しています。コンクリートは水圧や錆にも強いため、これを浮体下部に用いることでコストダウンを図るとともに、重心を下げ安定性も向上させています。なお、系統連系する浮体式洋上風力発電施設としてハイブリッドスパー構造を採用したものは、今回の小規模試験機が世界初となります。

 小規模試験機の形状・寸法は、2MW級実証機の約1/2の大きさで、一番深いところから風車翼(ブレード)の先端までの全長が71mで、海面上に浮いて見える部分の高さは34mとなります。また、円筒径は最大で3.8m、総重量は約350トンです。

 風車の形状は、風車ローター面がタワーの風下側となるダウンウィンド型としており、特にスパー型浮体との組み合わせにおいてより安定性に優れた形式となっています。


図1:今回設置した浮体式洋上風力発電施設の形状寸法


図2:設置場所

設置までの経緯および今後のスケジュール

 本事業の実施に当たり、自主的に環境影響評価を実施し、必要な調査・予測等をおこない、事業者の実行可能な範囲内で影響を十分に回避低減された計画であることを確認しています。また、小規模試験機設置に当たり必要となる許認可を取得し、約3ヶ月をかけて製作した各構成部材を岸壁にて横向きに一体化させ、これを設置海域まで曳航して、建起し、所定位置への移動および係留作業をおこないました。

 

 

 

 

1 台船からの吊上げ時  

2 建起し(約15度)・注水時

 

 

 

4 建起し完了時

  3 建起し時(約70度)

 

 

 

5 所定位置への風車移動時   6 所定位置での係留・設置完了時

写真1:洋上設置状況写真

 今後、発電に必要となる海底ケーブルの布設、風車電気設備の接続・試運転をおこなった上で、7月中には運転を開始する予定であり、系統連系をおこなう国内初の本格的な浮体式洋上風力発電施設がまもなく誕生します。

 なお、この小規模試験機は、約1年後に計画している2MW級実証機の設置に先立って撤去し、浮体・チェーンへの生物付着や腐食・摩耗状況等の調査をおこなう予定ですが、それまでは運転を続け、環境への影響や、施設の動揺・発電状況、等を観測していきます。

環境省浮体式洋上風力発電実証事業 受託者グループ:

(代表)戸田建設株式会社
富士重工業株式会社
芙蓉海洋開発株式会社
京都大学
独立行政法人海上技術安全研究所

本件連絡先

京都大学大学院工学研究科
社会基盤工学専攻 准教授 宇都宮 智昭 (Utsunomiya Tomoaki)

 

  • 朝日新聞(7月18日夕刊 5面)および日本経済新聞(10月2日 14面)に掲載されました。