膀胱の体内時計とコネキシン43は排尿の日内リズム形成に関与している

膀胱の体内時計とコネキシン43は排尿の日内リズム形成に関与している

2012年5月2日

 小川修 医学研究科教授、兼松明弘 兵庫医科大学准教授、根来宏光 アルバートアインシュタイン医科大学研究員、田畑泰彦 再生医科学研究所教授、岡村均 薬学研究科教授らの研究グループは、膀胱の体内時計が、夜に尿を多く貯めることができ、良好な睡眠を確保するしくみを支えていることを発見しました。これはおねしょや夜間頻尿といった排尿リズムが崩れている病気の治療や研究のカギとなる可能性があります。本研究成果は、科学誌「Nature Communications」に発表されました。

研究の概要

 生物には24時間リズムを刻む体内時計が存在している。全身の臓器にある体内時計でリズムが発振され、これらが脳にある体内時計により統合されると考えられている。個々の臓器の体内時計は臓器の機能に重要な役割を担うと想定されるが、一部を除いて解明されていない。

 ヒトは睡眠期間中に排尿することは少ないが、これは睡眠期間中に尿を腎臓がつくる量が減り、膀胱が貯めることのできる量が増えることによる。この二つのはたらきのバランスが崩れた状態が、子供の夜尿症(おねしょ)や、高齢者の夜間頻尿(夜中に排尿のに起きること)で、非常に頻度が高い。私達は膀胱が24時間の中で尿を貯める量を変化させるのに体内時計がはたらいていることを、マウスおよびラットなどを使用して示した。


図1 

 マウスの排尿を調べることは一回の排尿量が非常に少ないために難しかった。私達はローラー型のろ紙をモーターで一定速度で巻き取る機械を作成してその上でマウスを飼育し、ろ紙についた尿のシミひとつを一回の排尿量として換算することでいつ、どれくらいの量の尿を排尿したかを長時間にわたり記録することに成功した。この方法は英語の頭文字を略してaVSOP(automated voided stain on paper)法と名付けた(図1)。マウスは夜行性動物で昼に睡眠休息し、夜に活動する。aVSOP法によりマウスの排尿の習慣をしらべたところ、ヒトと同じように睡眠休息期のマウスの排尿回数は少なく、たくさんの尿を膀胱にため、活動期のマウスは少ない量をひんぱんに排尿していた。

 体内時計の構成要素(時計遺伝子)は膀胱内でもやはりリズムを刻んでいた。この時計遺伝子のリズムは、マウスの膀胱を切除し、睡眠・起床の影響がない状態で培養皿においても保たれていた。一方、時計遺伝子の機能を完全に消失させたマウスの排尿習慣をaVSOP法で調べたところ、排尿量と排尿回数の日内変動も消失していた。すなわち、排尿リズムが体内時計にコントロールされていることが示された。

 コネキシン43(Cx43)という分子は膀胱に伝えられた刺激を細胞から周囲の細胞へと連絡をする機能がある。Cx43の遺伝子を減らしたマウスは、通常のマウスよりも一回の排尿量が増えていた。さらに、Cx43はマウスやラットの膀胱の細胞中で活動時間帯に増え、休息時間帯に減るリズムをもっていた。ラットの膀胱から分離した筋肉の細胞を培養皿の上においた状態でも生物時計のリズムが認められたが、それと平行してCx43のタンパク量と細胞の刺激の伝わりやすさも変化していた。すなわち、Cx43の発現は、膀胱筋肉細胞内の時計(生物時計)によってコントロールされている可能性が高いと考えられた(図2)。


図2 上: 通常のマウスの排尿のシミ 下: Cx43遺伝子を減らしたマウスのもの

 膀胱でCx43が日内リズムを刻む仕組みに、時計遺伝子のひとつRev-erbαという分子が関与していることがわかった。このRev-erbαは直接DNAにとりついて遺伝子からタンパクをつくる活動性を調節しているとされていたが、Cx43の遺伝子についてはもうひとつ別のSp-1という分子を間において間接的にDNAにとりついて調節していることがわかった。これは、時計遺伝子ではこれまで全く知られていなかった仕組みであった(図3)。


図3 Cx43タンパク(上)、Rev-erbα遺伝子(線グラフ)および、一回排尿量(棒グラフ)の変化

結論

 時計遺伝子が排尿の日内リズム形成に関与していることが証明された。おねしょや夜間多尿などの研究と治療において今後体内時計がカギとなる可能性が示された。

関連リンク

  • 論文は以下に掲載されております。
    http://dx.doi.org/10.1038/ncomms1812
  • 以下は論文の書誌情報です。
    Negoro Hiromitsu, Kanematsu Akihiro, Doi Masao, Suadicani Sylvia O., Matsuo Masahiro, Imamura Masaaki, Okinami Takeshi, Nishikawa Nobuyuki, Oura Tomonori, Matsui Shigeyuki, Seo Kazuyuki, Tainaka Motomi, Urabe Shoichi, Kiyokage Emi, Todo Takeshi, Okamura Hitoshi, Tabata Yasuhiko, Ogawa Osamu.
    Involvement of urinary bladder Connexin43 and the circadian clock in coordination of diurnal micturition rhythm. Nature Communications.
    2012/05/01/online.
    doi: 10.1038/ncomms1812

 

  • 朝日新聞(5月2日 26面)、京都新聞(5月2日 21面)、産経新聞(5月2日 18面)、日刊工業新聞(5月10日 21面)、日本経済新聞(5月2日 34面)、毎日新聞(5月2日 2面)、読売新聞(5月2日 26面)および科学新聞(5月18日 4面)に掲載されました。