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1種の生物種が複数の生物種に分化する現象が、冬の寒さによって促される

2011年12月2日


山本特定研究員

 山本哲史 理学研究科動物生態学研究室特定研究員は、日本に生息するある昆虫において、冬の寒さが厳しいことによって種分化(1種の生物種が複数の生物種に分かれる現象)が生じることを見つけました。この研究成果は、「Molecular Ecology」誌に掲載されました。

【論文情報】
雑誌名:Molecular Ecology
論文タイトル:Parallel allochronic divergence in a winter moth due to disruption of reproductive period by winter harshness
著者名:SATOSHI YAMAMOTO, TEIJI SOTA
doi: 10.1111/j.1365-294X.2011.05371.x
電子版出版日:2011年11月21日
【論文アクセスURL】
http://dx.doi.org/10.1111/j.1365-294X.2011.05371.x

研究の概要

 地球上にはたくさんの生物種が生息していますが、生命の起源は極めて少数(おそらくたった1種)の生物種から始まったと考えられています。現在のような多様な生物が生まれてきたのは、まるで樹木の枝のように、もともと1種だった生物が複数の生物種へと枝分かれを繰り返してきたためだと考えられています。このように、1つの生物種が複数の生物種へと分かれる現象を種分化といいます。本研究では、ある昆虫において冬の寒さが種分化を引き起こしていることを示しました。

 一般的に昆虫は温暖な季節に成虫となって繁殖などの活動をし、冬は休眠して動きません。しかし、少なからず、寒い季節に成虫となり繁殖を行う昆虫がいます。その中でも冬尺蛾と呼ばれる蛾のグループは日本では比較的有名な冬に活動する昆虫で、日本には40種程度の冬尺蛾が生息しています。今回研究した昆虫は冬尺蛾の一種でクロテンフユシャクという蛾です。

クロテンフユシャクの活動時期は生息場所の寒さによって違います。冬の平均気温が0度程度までの比較的温かい場所(以降、温暖地)では冬尺蛾は真冬期に活動しますが、それよりも寒い場所(寒冷地)では低温や積雪などの厳冬環境のために真冬には活動できません。ですので、寒冷地では冬尺蛾の活動は初冬と晩冬に分かれてしまいます(図)。

   

 

 生物はお互いに繁殖を通して遺伝子を交換できる状態が「同じ種」であり、もし遺伝子を交換できなくなってしまうと、徐々に異なる生物へと進化すると考えられています。寒冷地のクロテンフユシャクは、繁殖の季節が異なるために「初冬型」と「晩冬型」は遺伝子を交換しあうことができない可能性があります。

 そこで、本研究ではまず「初冬型」「晩冬型」のクロテンフユシャクを採集し、これらのタイプ間で繁殖が行われているかどうかを分子生物学的手法で調べました。その結果、たとえ全く同じ場所で採集されたものであっても、初冬型と晩冬型はほとんど遺伝子を交換できない状態にあることがわかりました。

 次に、より多くの標本を集めてDNAの違いを調べたところ、クロテンフユシャクは「九州の初冬型」「本州の初冬型」「晩冬型」の三つのグループに分かれていました。さらに、九州の初冬型は本州の初冬型からではなく、晩冬型から進化してきたことが示されました。つまり、進化の過程としては、まず本州の寒冷地において初冬タイプと晩冬タイプが分かれ、晩冬タイプの中で九州の寒冷地へ移動したものの中から初冬タイプが再度進化したとことが分かりました。

 以上の結果は、(1)初冬タイプと晩冬タイプが寒さによって交流が妨げられ、別種になりつつあること、(2)寒さによって初冬タイプと晩冬タイプに分かれることは1回きりのできごとではなく、寒いという条件が整えば繰り返し生じる現象であることを示しています。

 本研究は、「冬の寒さが新たな生物種を生み出す原動力になる」という今までにない仮説を科学的に検証したものです。温暖地で真冬に活動するタイプは、DNAを見る限り、寒冷地の初冬型と晩冬型が混ざり合ったものです。このことは、現在、温暖な場所でも過去には寒冷であり、初冬型と晩冬型に分かれていた可能性を示しています。つまり、初冬型と晩冬型はタイミングさえ一致すれば繁殖可能であると考えられます。もし、気候が暖かくなれば寒冷地の初冬型と晩冬型は融合して一つの種に戻るかも知れませんし、もし寒冷になれば他の場所で初冬型と晩冬型の分化が生じる可能性もあります。

用語解説

冬尺蛾

冬に活動するシャクガ科蛾類のグループ。しゃくとり虫はシャクガ科蛾類の幼虫。

 

  • 朝日新聞(12月3日夕刊 10面)、京都新聞(12月3日 27面)、産経新聞(12月3日 26面)および読売新聞(12月3日 38面)に掲載されました。