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炭素はいつ生まれたか?125億光年彼方の銀河に炭素を発見

2011年10月6日


左から長尾准教授、松岡氏

 松岡健太 理学研究科/愛媛大学理工学研究科 日本学術振興会特別研究員、長尾透 次世代研究者育成センター(白眉プロジェクト)准教授、谷口義明 愛媛大学宇宙進化研究センター長/教授を中心とする研究チームは、すばる望遠鏡の微光天体分光撮像装置FOCASを用いた可視分光観測によって、125億光年彼方にある最遠方電波銀河TN J0924-2201から放射された炭素輝線の検出に世界で初めて成功しました。検出された輝線を調査したところ、驚くべきことに宇宙誕生後10億年頃の電波銀河には既に炭素元素が豊富に存在していたことがわかりました。

 元素が宇宙の歴史の中でいつ、どのように生成されてきたのかという問題は未だに解き明かされていません。今回の結果は宇宙の化学進化を理解する上で非常に重要な成果であるとともに、生命の基本構成元素である炭素がいつ生成されたのか、すなわち生命の究極的なルーツを知る手掛かりになるかもしれません。

 なお、この研究成果は、2011年8月発行のアストロノミーアンドアストロフィジクス誌に掲載されました。

研究の背景と経緯

 私たちが住んでいる宇宙は今からおよそ137億年前、ビッグバンという大爆発によって誕生したと考えられています。誕生直後の宇宙にはビッグバンで生成可能な水素とヘリウムしか存在しませんでした。では現在私たちのまわりに存在する酸素や炭素、鉄、マグネシウムといった多種多様な元素はいったいどのように生成されたのでしょうか。その答えは夜空に輝く星にあります。太陽のように自ら輝く星(恒星)はその内部で核融合反応を行い、また大質量星になると超新星爆発という現象を伴った壮絶な最期を遂げます。自然界に存在する元素は、これら恒星の進化に伴う現象によって生成されると考えられています。宇宙が誕生して現在に至るまでに無数の星が生まれ、そして死んでいくことで元素は蓄積されてきました。しかしながら、このような元素生成が宇宙の歴史の中でいつ、どのように行われてきたのかという「宇宙の化学進化」の側面は未だに解き明かされていません。私たち人間自身も酸素や炭素、窒素、カルシウム、リンといった重元素によって構成されていることを考えると、化学進化を理解することは生命のルーツに対する理解にも繋がる極めて興味深い課題とも言えます。

研究内容

 化学進化を調べる方法の一つとして、様々な赤方偏移の天体に対してその元素量を調べることが挙げられます。赤方偏移は距離の指標であり、同時に時間の指標でもあります。つまり、元素量の赤方偏移に対する振る舞いを調べることで元素量の時間進化を見ることができます。今回、京都大学および愛媛大学の研究者を中心とする研究チームは、巨大ブラックホールの重力エネルギーにより電波や可視光で極めて明るく輝く「電波銀河」と呼ばれる天体に着目しました。電波銀河を用いた元素量診断の研究はこれまでにも行われていますが、そのほとんどが赤方偏移3あたりまでの宇宙、すなわち今から115億年前までの宇宙しか調べられていませんでした。しかもこれらの調査の結果は、現在の宇宙に見られるような元素が115億年前には既に生成されていたことを示しています。これは、少なくとも宇宙誕生後20億年以前の電波銀河を調べなければ元素が生成されている現場を見ることができないことを意味しています。そこで研究チームは現在最も遠くで見つかっている電波銀河TN J0924-2201(赤方偏移5.19:図1)に着目して、その元素量を測定するためにすばる望遠鏡の微光天体分光撮像装置FOCASを用いた可視分光観測を行いました。

研究成果と今後の展望

 この天体はこれまでも何度か観測されていたのですが、元素量診断に必要な水素やヘリウム以外からの輝線はとても弱いため、検出できていませんでした。しかしながら、今回のすばる望遠鏡による分光観測によって、元素量診断に必要な炭素輝線の検出に世界で初めて成功しました(図2)。125億光年彼方の電波銀河からの水素、ヘリウム以外からの輝線の検出は今回が初めてであり、この輝線から宇宙誕生後10億年頃の電波銀河における元素の詳細な研究が可能となりました。今回検出された輝線を調査したところ、驚くべきことに当時の電波銀河でも既に相当量の元素が存在していたことがわかりました。さらに本研究チームは今回の観測とシミュレーションの結果を比較することで、当時の電波銀河の炭素存在量を推定しました。その結果、銀河進化の中でゆっくりと増加してきたと考えられている炭素元素でさえ、その大部分が宇宙誕生後10億年頃に既に生成されていたことがわかりました。これは現在電波銀河に見られるような元素のほとんど全てが宇宙の誕生後10億年以内という極めて短い期間に爆発的に生成されたことを示唆しています。

 研究をリードしてきた松岡特別研究員は、「私たちはどこからきて、どこへいくのか。人類のルーツにも繋がる元素生成の歴史を解き明かすために、今後もさらなる調査を進めていきたい」と意気込んでいます。また、長尾准教授は、「このような研究に有用な遠方宇宙における巨大ブラックホール天体を更に調査することが、今後ますます重要になるでしょう」と今後の展開について期待を寄せています。

研究チームの構成

松岡健太(京都大学大学院理学研究科/愛媛大学理工学研究科 日本学術振興会特別研究員)
長尾透(京都大学次世代研究者育成センター(白眉プロジェクト) 准教授)
Roberto Maiolino(ローマ天文台 准教授)
Alessandro Marconi(フィレンツェ大学 准教授)
谷口義明(愛媛大学宇宙進化研究センター長/教授)

参考図

   

  1. 図1:最遠方電波銀河TN J0924-2201のハッブル宇宙望遠鏡による可視光画像。TN J0924-2201は可視光で25.85等級の明るさ。

   

  1. 図2:すばる望遠鏡のFOCASで取得された最遠方電波銀河TN J0924-2201の可視スペクトルと炭素輝線(下向き矢印)周辺の拡大図。図中の左端付近に見えるのは水素からの輝線。すばる望遠鏡を用いることで非常に微弱な125億光年彼方の炭素輝線を世界で初めて検出しました。

用語解説

元素

ビッグバンによって生成が可能な水素、ヘリウム以外の元素のことを天文学の世界では重元素と呼びます。

赤方偏移

天体が観測者から遠ざかる場合、天体から放射された光の波長はドップラー効果によって長波長側に伸ばされます。この現象は赤方偏移と呼ばれ、膨張によって遠くにある天体ほど速く遠ざかることが知られているこの宇宙では距離の指標としても使われます。赤方偏移5.19の天体は約125億光年彼方にあり、この天体から放射された光は125億年かけて私たちに届きます。つまり、この天体から放射された光を調べれば今から125億年前の宇宙の様子を探ることができます。

研究論文の出典

Kenta Matsuoka, Tohru Nagao, Roberto Maiolino, Alessandro Marconi, Yoshiaki Taniguchi, A&A, 532, L10, "Chemical properties in the most distant radio galaxy"

関連リンク

 

 

  • 朝日新聞(10月7日 35面)、京都新聞(10月6日夕刊 1面)、日本経済新聞(10月6日夕刊 16面)、毎日新聞(10月6日夕刊 8面)および読売新聞(10月7日 37面)に掲載されました。