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新しいポリマー電解質を開発 安全な高電圧リチウムイオン電池が可能に~コロイド結晶型固体ポリマー電解質を用い、室温で充放電可能なバイポーラ型高電圧リチウムイオン電池(6V駆動)を実現~

2011年9月29日

鶴岡工業高等専門学校
京都大学

 佐藤貴哉 鶴岡工業高等専門学校教授、森永隆志 同助教、辻井敬亘 化学研究所教授、大野工司 同准教授らの研究グループの成果が科学誌「Advanced Materials」の電子版に掲載されました。

研究の背景

 リチウムイオン二次電池は、様々な二次電池の中で最も高いエネルギー密度・高い出力を持ったものであるが、電解液として有機溶媒を用いているため、短絡、過充電時など、誤使用時の安全対策が不可欠だった。これを実現すべく、電解質の固体化、あるいは、難燃性を有するイオン液体の利用が検討されているが、いずれも現状では、リチウムイオンの移動性が大きく低下するため、十分な性能を発揮するリチウムイオン電池の開発には至っていない。全固体型リチウムイオン電池は、安全性の向上のみならず、セル内で直列に積層して高電圧化を図ることができるなど、次世代電池として期待され、高いイオン伝導性と安全性を両立できる固体電解質膜の開発が希求されている。

研究の概要

コロイド結晶型固体電解質膜の創製

 研究グループでは、難揮発性、耐熱性(300℃付近でも発火しない)と耐電圧性(一般的なリチウムイオン二次電池で発生する電圧をかけても安定)を有するイオン液体の分子内に、高分子化が可能な重合性基を導入した新しいイオン液体型モノマーを合成した。このモノマーに辻井らの開発した表面開始リビングラジカル重合法を適用して、直径130nm(1nmは10億分の1m)のシリカ微粒子表面にイオン液体の性質を有する長さの揃った高分子ブラシを高密度に付与したイオン液体ポリマーブラシ/シリカ複合微粒子(PSiP)を創製した。すでに大野らは、この高密度高分子ブラシの新規な特性を反映して、各種PSiPが液体中で自己配列し、コロイド結晶と呼ばれる三次元配列構造体を形成することを発見している。本研究では、PSiPに少量のイオン液体、リチウムイオンを含む揮発性溶媒の溶液をキャスト製膜(塗布製膜)によって、コロイド結晶の配列を乱すことなく固体膜化に成功した。

イオン伝導チャネル形成による高イオン伝導性の発現

 得られた固体膜が従来知られている固体ポリマー電解質に比べて極めて高いイオン伝導性を有すること、膜中において微粒子が面心立方格子構造と呼ばれる規則的な配列構造を有することを明らかにした。微粒子間隙には、高い分子運動性を有するブラシ末端とイオン液体が複合したイオン伝導ネットワークチャンネルが形成され、その結果、固体でありながらイオン液体にも匹敵する高いイオン伝導性を示したと考えられる。新しいコンセプトに基づく構造制御と高機能化を提唱する結果と期待される。

バイポーラ型高電圧リチウムイオン電池の試作

 佐藤らは、得られたコロイド結晶膜を電解質としたバイポーラ型高電圧リチウムイオン電池を試作し、セルにてその実用性を確認した。金属箔集電体の表裏に正負極を形成したバイポーラ電極と今回開発したコロイド結晶型固体ポリマー電解質膜を積層することで、1パッケージの中に直列接続された複数個の単電池を組み込むことが可能となる。試作したバイポーラ電池は、単セル電池の2倍の特性、すなわち、満充電電位6.0Vで3.0Vまでの放電、また、室温で50サイクル時まで充放電効率98%を達成した。開発した固体ポリマー電解質は、可燃性物質を含まない固体の電解質でありながら、リチウムイオン電池の室温駆動を可能にする高いイオン伝導性と電池のバイポーラ設計を可能とする成形性・強度を有することが実証された。

今後の展開

 次世代リチウムイオン電池の開発課題は、安全性、低コスト化、高信頼性(長寿命)の三つであると言われている。本研究のコロイド結晶型固体ポリマー電解質は、難燃性部材のみから構成されるため、電池の高レベル安全性確保に資するものである。また、可燃性液体を含まない電解質は、リチウムイオン電池の経年劣化による安全性の低下や漏液トラブルが無く、電池の信頼向上に貢献できる材料である。さらに本ポリマー電解質技術を用いてバイポーラ設計が可能となり、高電圧電源の小型化、低コスト化が可能となる。高電圧リチウムイオン電池は、電気自動車やプラグインハイブリッド自動車用電源として重要な技術課題であり、今後も積極的な研究開発が進んでいくと考えられる。本研究ではセルでの実証評価までを行ったが、現在は実用化に向け、電解質の改良研究および製造プロセス研究を継続研究中である。

参考図

   

  1. 新規固体電解質膜の創製コンセプト:複合微粒子の合成と配列制御

本研究への支援

本研究プロジェクトは、以下の研究費・制度の支援を受けて行われた。

  • CREST 戦略的創造研究推進事業 プロセスインテグレーションによる機能発現ナノシステムの創製(研究代表 辻井敬亘化学研究所教授、鶴岡工業高等専門学校、物質材料研究機構)
  • 文部科学省科学研究費補助金(基盤研究(c))(代表・佐藤貴哉 鶴岡工業高等専門学校物質工学科教授)

用語解説

リチウムイオン電池

充電と放電を繰り返して使用できる充電池(二次電池ともいう)の一種。一般的な充電池の中で最もエネルギー密度が大きく、電池を小型にできるため携帯機器に使用される。自動車用、系統連携円滑化用の大型リチウムイオン電池の開発が進んでいるが、電解質に有機溶媒を使用するため安全性に課題がある。電解質に高分子物質(ポリマー)を用いる電池をポリマー電池と呼ぶ。

高電圧リチウムイオン電池

一般的なリチウムイオン電池のセル電圧は4.2Vである。自動車用などの電源にリチウムイオン電池を用いる場合、数百に及ぶセルを直並列に繋げ、高電圧の電池モジュールとして用いる場合がほとんどである。一つのセル電圧が高ければ、高電圧化する時の直列接続セル数が減らせるため、電源の小型化、低コスト化が達成可能である。

バイポーラ型電池

1セル内で複数の単電池を直列接続した積層構造を有する電池のこと。

イオン液体

プラスに荷電したイオンとマイナスに荷電したイオンのみから構成される常温でも液体の状態を保つ特殊な塩。広い液体温度範囲とイオン伝導性、耐熱性、難燃性などを有する。

関連リンク

 

 

  • 朝日新聞(9月30日 9面)、京都新聞(9月30日 29面)、荘内日報(10月1日 1面)および山形新聞(10月1日 9面)に掲載されました。