セクション

チンパンジーの自己認識に関する新しい発見

2011年5月19日


左から兼子氏、友永准教授

 友永雅己 霊長類研究所准教授、兼子峰明 大学院生の研究グループは、チンパンジーは自分が何をしているのかがわかっていることを発見し、この研究成果が学術専門誌「Proceedings of the Royal Society B」(英国王立協会紀要)に掲載されました。

【発表論文】
Kaneko, T. and Tomonaga, M. (2011)
"The perception of self-agency in chimpanzees(Pan troglodytes)."
Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences

研究の概要

チンパンジーの「自己」の新たな側面

 ヒトの自己意識の基盤には「行為の主体感」という感覚が存在する。行為の主体感とは、ある行為を「自分自身で行っている」、「自分がその行為の主体である」といった感覚を意味する。たとえば、TVゲームを2人で行う場合、どのキャラクターを自分が操っているのかを知るのはとても簡単だ。それは、この「行為の主体感」という感覚が我々にはあるからだ。このような認識が成立するためには、自分の行為の結果に対する予測と実際の結果を比較し照合する過程が重要である。つまり、「右にうごく」と思うと同時に実際に右に動くことで、行為の主体感が形成されるのだ。このような感覚がチンパンジーにも存在することを、友永雅己 霊長類研究所准教授、兼子峰明 大学院生のグループが明らかにした。

 同グループは、チンパンジーにトラックボールと呼ばれる装置を用いて、モニタ画面上のカーソルを操作することを訓練した。訓練完了後のテストでは、1つではなく2つのカーソルがモニタ上に現れる。一方はダミー、もう一方は「自分が」動かしているカーソルだ。どちらのカーソルをチンパンジーが実際に操作しているのか第三者にはわからない。しかし、もし行為の主体感が成立しているのであれば、自らが意図した運動と実際の運動の結果を照らし合わせることで、自分がどちらを操作しているのか容易に認識できるはずだ。テストの結果、チンパンジーは、自分が操作しているカーソルを正しく選ぶことができた (写真参照)。つまり、チンパンジーでも行為の主体感が自己認識の重要な要因として機能していることが分かった。

 これまでにも、チンパンジーでは鏡に写った自分の姿像を「自分だ」とわかることが報告されてきた。今回の研究は、チンパンジーが持つ「自己」の新たな側面を浮き彫りにしたといえるだろう。そして、この成果は、私たちヒトにおける自己認識がどのように進化してきたのかについての重要な手がかりとなる、と同グループは考えている。

関連リンク

 

  • 朝日新聞(6月16日 29面)、京都新聞(5月20日 24面)、産経新聞(5月20日 24面)、中日新聞(5月20日 28面)、日刊工業新聞(5月20日 21面)、日本経済新聞(5月20日 34面)、毎日新聞(5月20日夕刊 8面)および読売新聞(5月20日 1面)に掲載されました。