脂肪酸受容体GPR41によるエネルギー調節機構の解明

脂肪酸受容体GPR41によるエネルギー調節機構の解明

2011年4月26日

 辻本豪三 薬学研究科教授、木村郁夫 薬学研究科助教らの研究グループの成果が、米国科学アカデミー紀要「PNAS」に掲載されることになりました。

【論文情報】
米国科学アカデミー紀要 (Proc Natl Acad Sci U S A)
Kimura I, Inoue D, Maeda T, Hara T, Ichimura A, Miyauchi S, Kobayashi M, Hirasawa A, Tsujimoto G.
Short-chain fatty acids and ketones directly regulates sympathetic nervous system via GPR41

研究の概要

 エネルギーホメオスタシスの維持は生命にとって非常に重要なものです。そして、その破綻は様々な代謝疾患の原因となります。摂食下、ヒトを含む哺乳類は主な代謝燃料としてブドウ糖を利用します。そして、食物繊維から腸内細菌の発酵により合成される、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の短鎖脂肪酸もまた、日々のエネルギー利用に重要な部分を占めています。また、飢餓や糖尿病等のエネルギー不足時、代替エネルギー源として肝臓において脂肪酸から作られたケトン体が利用されます。これらのエネルギーの取り込みを調節するために、過度な食事や飢餓において起こる交感神経反応は、エネルギー消費の増加や減少の引き金となります。現在までにブドウ糖によるエネルギー代謝調節機構は、よく調べられていました。しかしながら、短鎖脂肪酸やケトン体によるエネルギーバランスの調節に関しては、ほとんど知られていませんでした。

 今回の発見で、我々は短鎖脂肪酸やケトン体が脂肪酸受容体GPR41を介して、交感神経を直接的に調節するとこを明らかにしました。GPR41は交感神経節という、交感神経細胞の集合体に豊富に存在し、短鎖脂肪酸はこのGPR41を介して交感神経を活性化することがわかりました。一方で、飢餓や糖尿病時においてケトン体であるβヒドロキシ酪酸はGPR41を抑制することにより、交感神経を抑制することがわかりました。さらにこれらの短鎖脂肪酸やケトン体による反応は、エネルギー消費量の変動と非常によく一致していました。

したがって、我々は、

摂食時(エネルギー過剰)
1.食事により食物繊維が取り込まれる→2.腸内において腸内細菌により酢酸等の短鎖脂肪酸が産生される。→3.短鎖脂肪酸が交感神経節のGPR41を活性化→4.交感神経活性化によるエネルギー消費の増大

飢餓・糖尿病時(エネルギー不足)
1.エネルギー代替物質としてのケトン体の肝臓での合成→2.ケトン体がGPR41による交感神経活性化を阻害→3.交感神経抑制によるエネルギー消費の減少

のような、体内のエネルギーバランスを認識することによってエネルギー消費を調節し、エネルギーホメオスタシスを維持するという、脂肪酸受容体GPR41を介した全く新たなエネルギー調節機構を明らかにしました。

 このことは、肥満や糖尿病等に代表されるエネルギー調節障害に対する、GPR41を標的とした予防・治療薬への応用が可能であると期待されます。

   

関連リンク

 

 

  • 京都新聞(4月26日 25面)、産経新聞(4月26日 24面)および日刊工業新聞(4月26日 19面)に掲載されました。