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多様な機能的Tリンパ球の生成を担保する新しいメカニズム

2011年2月14日

 湊長博 医学研究科教授、濱崎洋子 同准教授、河合洋平 同大学院生による研究成果が、2月14日に米国科学アカデミー紀要PNAS電子版で公開されました。

研究の概要

 獲得免疫の特徴は、無数に近い病原体などの外来抗原を特異的に認識して排除することにあり、その司令塔として働くのがTリンパ球である。このために免疫系は、多様な抗原レセプターを持つ細胞をまずランダムに無数に作りだし、その中から機能的な細胞のみを選択するという戦略をとっている。このプロセス(「教育」と呼ばれる)は専ら胸腺組織で起こり、E2Aという転写因子が重要な役割を果たす。E2Aは遺伝子組み換えによる多様な抗原レセプターを誘導する(1)。これらがT細胞の抗原認識ルールに則って正しく機能しうるかどうかは、自己抗原を提示する胸腺上皮細胞によって検証(テスト)される。このテストで、「自己」に強く反応する細胞はアポトーシスによって殺され(A、赤い細胞、自己反応性の除去)、弱く反応する細胞のみが末梢で病原体を正しく認識しうる細胞として生存シグナルを受けて生き残り(B、黄色い細胞)、全く反応できない細胞は上皮細胞によって「無視」され自滅していく(C、黒い細胞)。E2Aは非機能的細胞(黒)に再度新しい抗原レセプターを発現させ、一定期間「再テスト」のチャンス(追試)を与えることもできる(2)。しかし抗原レセプターは全くランダムに作られるので、それなりに認識ルールを満たす(テストに合格する)確立は非常に小さく、90%以上の細胞は「無視」され死滅してしまうことがわかっている(胸腺はリンパ球の墓場とよばれる所以である)。従って、選択の基準(テストの合格ライン)が厳格すぎると機能的Tリンパ球の生成そのものが減少し、できるだけ多くの外来抗原に対応するという本来の目的そのものが損なわれる危険がある。

 今回の研究でE2Aは、非常に弱い反応性を有する細胞にクローディン4という分子を誘導し、これによって生存シグナルを強くして選択される細胞数を増やすという新しい機能を有することが示唆された((3)、オレンジ色の細胞)。胸腺器官培養系でクローディン4の発現を抑制すると機能的Tリンパ球の生成が大きく減少してしまうので、これは可能なかぎり多くの病原体抗原に対応しうる十分な数の機能的Tリンパ球を担保するためのきわめて精緻な調整機能と考えられる。とくに驚くべき点は、このためにTリンパ球がクローディンという元来上皮細胞にのみ発現される分子を利用していることである(上皮細胞以外にクローディンが発現されるのはこれが知られている唯一の例である)。Tリンパ球の「教育」が上皮細胞(という教師)によって担われているという事実と無関係とは思えず、異なった種類の細胞間相互作用の機能的共進化を考える上でも非常に興味深い。

 今回の研究は、文部科学省科学研究費補助金特定領域研究「免疫系自己-形成・識別とその異常」(領域代表:湊長博)の研究成果の一環である。

関連リンク

  • 論文は、以下に掲載されております。
    http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1014178108
  • 下記は論文の書誌情報です。
    Kawai Y, Hamazaki Y, Fujita H, Fujita A, Sato T, Furuse M, Fujimoto T, Jetten AM, Agata Y, Minato N. Claudin-4 induction by E-protein activity in later stages of CD4/8 double-positive thymocytes to increase positive selection efficiency [Internet]. Proceedings of the National Academy of Sciences, published ahead of print February 15, 2011.
     

 

  • 朝日新聞(2月15日 37面)、京都新聞(2月15日 27面)、産経新聞(2月15日 20面)、日本経済新聞(2月15日夕刊 14面)および読売新聞(2月15日 37面)に掲載されました。