多言語サービス基盤のアジアへの展開 -タイNECTECと言語グリッドの連邦制運営を開始-

多言語サービス基盤のアジアへの展開 -タイNECTECと言語グリッドの連邦制運営を開始-

2011年2月14日


石田教授

 石田亨 情報学研究科社会情報学専攻教授と独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」という。理事長:宮原 秀夫)を中心とする研究グループは、タイ国立電子・コンピュータ技術研究所(以下「NECTEC」という。所長:Pansak Siriruchatapong)と連携してインターネット上の多言語サービス基盤「言語グリッド」の運営を開始しました(以下、複数の組織が連携して言語グリッドの運営を行うことを連邦制運営と呼ぶ)。

 この連邦制運営により、これまで国内の単一組織による言語グリッド運営では限界のあったアジア諸国からの参加者やアジア言語の言語資源の獲得が促進されます。また、国内の多文化共生活動や国際交流活動でのアジア言語のサービスの利用を可能にします。

背景

 情報学研究科社会情報学専攻では、2007年12月より多言語サービス基盤である「言語グリッド」の運営をしてきました。

 「言語グリッド」は2006年4月よりNICTが開発し、言語の専門家によって開発された汎用かつ高度な辞書や翻訳ソフトウェア等と現場で制作され分野に特化した用語集や用例集等がWebサービスとして登録されます。また、ユーザはこれらのサービスを自由に組み合わせて利用することができます。今まで、言語グリッドの運営は京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻で、非営利利用及び研究利用を対象に行われ、医療、教育、防災などの現場で多文化共生活動の支援に利用されてきました。しかしながら、国内の運営では、海外の言語資源提供者にアクセスすることに限界があるため、言語グリッド上のサービスが日本語や英語に関するものに偏っており、国内の多文化共生活動支援に必要なアジア言語のサービスの拡充が現在のユーザから求められていました。

今回の成果

 京都大学は、NICTと共同で総務省戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE)の助成を受けて、言語グリッドの連邦制運営モデル(図1)を構築するとともに、複数の言語グリッドを接続可能とする言語グリッド連携基盤をNICTが開発しました。また、NECTECの言語グリッドの運営開始に伴い、平成23年1月から複数言語グリッド間で多言語サービスを共用できる言語グリッドの連邦制運営を開始しました。これにより、お互いのユーザは多言語サービスを相互に利用することができるようになります。これまでも単一言語グリッドでの多言語サービスの共有は行われてきましたが、多言語サービス基盤間を接続し、お互いの多言語サービスを連携させる試みは世界で初めてです。

今後の展開

 言語グリッドはオープンソースソフトウェアとして公開しており、また言語グリッドの覚書は、言語グリッドが運営されている国の法令に準拠しており、国内外での連邦制運営の展開が容易です。京都大学とNICTは、連邦制運営モデルのアジアでの展開だけでなく、今後はヨーロッパにも展開していく予定です。

用語解説

言語グリッド

ユーザがインターネット上で多言語の言語サービスを共有し組み合わせて、多文化共生活動および国際交流活動のためのサービスを利用可能とする基盤。

連邦制運営

単一組織による言語グリッドの運営ではなく、複数組織がそれぞれ言語グリッドを運営し、相互に言語グリッドを接続して行われる運営方式。

戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE:Strategic Information and Communications R&D Promotion Program)

豊かなユビキタスネット社会の実現に向けてICT分野のイノベーションを生み出すことを目指し、総務省が定めた戦略的な重点研究開発目標を実現するための独創性・新規性に富む研究開発を支援する競争的資金制度。

オープンソースソフトウェア

ソースコードが無償で公開されているソフトウェア。ソフトウェアの著作権者の権利を守りながら、ソフトウェアの使用、複製、改変、再頒布が認められています。

補足説明

京都大学及びNECTECの言語グリッドの運営状況

 京都大学社会情報学専攻は、2007年12月から言語グリッドの運営を開始し、これまでに日欧言語を中心に20言語94言語サービスが登録されています。一方、NECTECは、今年の1月から言語グリッドの運営を開始し、アジア言語(インドネシア語、韓国語、タイ語、日本語、ヒンディ語、ベトナム語等)を中心に概念辞書サービス、翻訳サービス、音声合成サービスなど13言語20言語サービスが登録されています。

言語グリッド間連携による多言語サービス連携のデモンストレーション

 NICTの開発した言語グリッド連携基盤により接続された京都大学とNECTECの言語グリッドを用いて、アジアの外国人との多言語コラボレーションを支援するための多言語サービスを実現します。例えば、京都大学の運営する言語グリッド上で、日英ライフサイエンス辞書サービスと日英翻訳サービスを連携させて医療分野に特化した日英翻訳サービスを実現し、もう一方のNECTECの運営する言語グリッドの英泰翻訳サービスとタイ語音声合成サービスを連携させることで、その翻訳結果をタイ語の音声で出力します。

   

  1. 図1: 言語グリッドの連邦制運営モデル

 

  • 京都新聞(2月15日 11面)、産経新聞(2月15日 20面)、日刊工業新聞(2月15日 25面)、読売新聞(2月15日 33面)および科学新聞(2月18日 1面)に掲載されました。