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AesはNotchシグナルを阻害して大腸がん転移を抑制する

2011年1月19日


左から武藤教授、園下 医学研究科講師、
青木 元京都大学大学院医学研究科准教授/現愛知県がん
センター研究所部長

 武藤 誠(たけとう まこと) 医学研究科教授らの研究グループは、AesがNotchシグナルを抑制することで大腸がんの転移を抑制することを初めて明らかにし、この研究成果がCancer Cell(オンライン版)に掲載されることになりました。

原著論文: AesはNotchシグナルを阻害することで大腸がん細胞の転移を抑制する
原著者: 園下将大、青木正博、不破春彦、青木耕史、細木久裕、坂井義治、橋田裕毅、高林有道、佐々木誠、Sylvie Robine、伊藤和幸、吉岡潔子、柿崎文彦、北村剛規、大島正伸、武藤誠(京都大学大学院医学研究科、遺伝薬理学・消化管外科、東北大学大学院生命科学研究科、北野病院外科、Institute Curie、大阪府立成人病センター、および金沢大学がん研究所)

研究の概要

 消化器がんは、がんの中でも最も死亡率が高い。特に遠隔転移が死因となっているため、そのメカニズムの解明および予防・治療法の確立が急務となっている。

 本研究では、大腸がん悪性化を抑制する遺伝子の探索を行い、以下のことを明らかにした。

   

  1. (1)ヒトの大腸がん原発巣におけるAes (Amino-terminal enhancer of split) の発現低下は、悪性化進展の度合いと相関する。肝転移巣では、大腸原発巣と比較して著しいAesの発現低下が認められる。
  2. (2)Aesは、マウス大腸に移植された大腸がん細胞の転移を抑制する。
  3. (3)Aesは、Notchシグナル伝達に必要なタンパク質群を不溶性の核マトリクスに移行させることでNotchシグナルを阻害する。
  4. (4)Aesの発現が低下すると、がん細胞に隣接する間質細胞が発現しているリガンドによって、がん細胞のNotchシグナルが活性化され、悪性化が進行する。
  5. (5)腸の良性腫瘍のモデルであるApc遺伝子改変マウスにおいて、さらにAesを発現しないように遺伝子改変を行なうと、良性腫瘍細胞ががん化し、著しい局所浸潤と血管内侵入が観察された。重要なことに、これら悪性の表現形は、Notchシグナル阻害薬の投与により抑制された。

 血管内侵入は転移の過程で必須の段階であるが、これを模倣した自然発症の大腸がんモデルは存在していなかった。このため、このApcとAesの複合変異マウスは転移の治療や予防法を評価できる初めてのモデルとしてその有用性が期待される。以上の結果は、他の疾患のために開発されているNotchシグナル阻害薬を用いて大腸がんの悪性化進展を予防・治療できる可能性を示しており、新しい戦略として意義深い。

関連リンク

  • 論文は、以下に掲載されております。
    http://www.cell.com/cancer-cell/fulltext/S1535-6108(10)00473-3
  • 以下は論文の詳しい書誌情報です。
    Sonoshita M, Aoki M, Fuwa H, Aoki K, Hosogi H, Sakai Y, Hashida H, Takabayashi A, Sasaki M, Robine S, Itoh K, Yoshioka K, Kakizaki F, Kitamura T, Oshima M, Taketo MM. Suppression of Colon Cancer Metastasis by Aes through Inhibition of Notch Signaling. Cancer Cell 2011 Jan;19(1):125-137.

 

  • 朝日新聞(1月19日 28面)、京都新聞(1月19日 23面)、日本経済新聞(1月19日 34面)、毎日新聞(1月19日 22面)および読売新聞(1月19日 30面)に掲載されました。