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脊椎動物における新規紫外光受容タンパク質の同定

2010年12月7日

 七田芳則 理学研究科教授、山下高廣助教らと、大内淑代 徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部准教授らの共同研究による研究成果が、2010年12月6日米国科学アカデミー紀要オンライン版にて発表されました。

概要

 ヒトを含む脊椎動物は、光情報を視覚として感じる以外に、時刻や季節を認識するなど多面的に利用している。眼の中の視細胞にはオプシンと呼ばれるタンパク質があり、視覚の光受容体としてよく知られている。近年解析が進むヒトなどのゲノム情報を見ると、視細胞に見いだされるオプシン以外にも類似の遺伝子が多数存在することがわかってきた。これらオプシン類は7つのグループに分類されるが、この中でOpn5(ニューロプシン)グループだけがタンパク質の性質が明らかでない唯一のものとして残っていた(図1)。Opn5は生体内での含有量が少ないためタンパク質の解析には人工的にタンパク質を作製する必要があるが、現在まで成功例がなかった。

 今回我々はこれまでの経験に基づくノウハウを用いて試行錯誤を行い、ニワトリのOpn5について人工的にタンパク質を作製することに成功した。その結果、これまでの予想とは異なり紫外光感受性を有することがわかった(図2)。つまりこの光受容タンパク質は、細胞外からの紫外光を受容して細胞内に情報を伝達することができる。さらにOpn5は、ニワトリの眼の視細胞以外のいくつかの神経細胞、さらには時刻や季節の認識に関わる光受容体があると考えられていた脳内の松果体や視床下部室傍器官に発現していることがわかった。このOpn5はニワトリで見いだされた最初の紫外光感受性タンパク質であり、時刻や季節の認識といった視覚以外の光受容において可視光だけでなく紫外光も重要な働きをすると考えられる。さらにこの遺伝子は脊椎動物に広く存在するが、ヒトではこれまで紫外光感受性オプシンは見つかっていなかった。

 本研究は、ヒトもOpn5を用いて眼や脳内で紫外光を感受している可能性を示す世界で初めての結果である。

   

  1. 図1 オプシン類の分子系統樹に基づく7つのグループ
    Opn5以外の6つのグループでは、吸収する光の波長や細胞内で駆動する情報伝達系の種類などについて知見が存在していた。しかし、Opn5グループだけは唯一タンパク質の性質に関する報告がなされていなかった。

   

  1. 図2 Opn5とヒトの視覚オプシンとの吸収スペクトルの比較
    ヒトの眼の視細胞には、視覚の光受容タンパク質である4種類のオプシン(ロドプシンと赤・緑・青感受性錐体オプシン)がある。これらによって認識できる波長域が可視光である。一方、眼の視細胞以外の神経細胞や脳内にあるOpn5は、吸収極大が360nmにあり紫外光に高い感受性を持つ。

研究の背景

 動物の代表的な光受容器官は眼である。脊椎動物の眼には視覚に関わる光受容細胞である視細胞があり、そこで機能している光受容タンパク質がロドプシンなどのオプシン類である。最近の爆発的なゲノム情報の蓄積により、当初の予想以上に多数のオプシン類が存在することがわかってきた。これらの多くが脳内など視細胞以外に存在すると考えられ、視覚以外の重要な光受容機能に関わると想像されている。そのため、これらオプシン類のタンパク質の性質を解析することは動物の多様な光利用のメカニズムを明らかにする上で欠かすことができない。オプシン類はそのアミノ酸配列から7つのグループに分類できるが、6つのグループについてはどの波長の光を吸収するかなど性質について報告がなされていた(図1)。しかし、Opn5グループだけはこれまでタンパク質の性質について報告がなかった。その理由として、Opn5は生体内における含有量が少ないためタンパク質の解析を行うには人工的にタンパク質を作製することが必要であったが、このタンパク質作製に成功した例がなかったためであった。

研究成果

 本研究で我々は、これまでに多様なオプシン類においてタンパク質を人工的に作製することに成功してきたノウハウを駆使して、ニワトリのOpn5のタンパク質を作製することに成功した。そしてタンパク質の性質を解析したところ、紫外光に感受性の高い光受容タンパク質であることがわかった(図2)。また、このタンパク質は眼の視細胞とは異なる情報伝達系を細胞内で駆動できる性質をもつことも明らかとなった。さらに、Opn5が生体内のどこで機能しているのか解析したところ、眼の中では視細胞とは異なる神経細胞であるアマクリン細胞と神経節細胞に発現していることを見いだした。また、脳内での発現も確認し、これまで概日リズムの調節や光周性に関わる光受容体があると考えられていた松果体や視床下部室傍器官に発現していた。これまでニワトリでは紫色感受性オプシンの存在は確認をされていたが、紫外光に感受性のあるオプシンの同定は初めてとなり、視覚以外の光受容において紫外光を受容することが重要な働きをしていることが考えられる。さらに、Opn5は魚類から哺乳類まで多様な脊椎動物のゲノムに見いだされているため、ヒトを含めて脊椎動物では眼や脳において紫外光を受容できる共通のメカニズムを持つことが想像できる。ヒトの眼には赤・緑・青それぞれに感受性のあるオプシンがあり、これらの働きにより認識できる光の波長がいわゆる“可視光”と呼ばれる。これまでヒトでは紫外光感受性オプシンは見いだされていなかったが、今回の発見により視覚以外の光受容ではOpn5の働きにより“紫外光”も“可視光”である可能性がある。今後、Opn5による紫外光受容がヒトで果たす役割について解析することにより、ヒトは紫外光をいかに利用しているのか明らかにできると期待される。

 本研究成果は日本学術振興会科学研究費 基盤研究(S)「視物質と視細胞の機能多様化メカニズム」、文部科学省科学研究費補助金 特定領域研究「セルセンサーの分子連関とモーダルシフト: 多様なロドプシン類における光感受性制御メカニズム」およびグローバルCOEプログラム「生物の多様性と進化研究のための拠点形成」の研究推進過程で得られたものです。
 

用語解説

オプシン

動物の代表的な光受容タンパク質で、タンパク質内部に発色団としてビタミンAの誘導体を結合することにより細胞外からの光情報を受容し細胞内に情報伝達を行う。紫外光から赤色まで広範囲の波長の光に感受性のあるオプシンが存在するが、その感受性の違いは主にタンパク質部分のアミノ酸配列の違いによる。また、オプシンの種類により細胞内で駆動する情報伝達系が異なることも知られている。

可視光

ヒトの眼で認識できる波長範囲で、約400~750nmである。この範囲より短波長側が紫外光、長波長側が赤外光となる。

概日リズム

多くの動物は体内に約24時間周期で自律的にリズムを刻む体内時計を持っている。この“概ね”24時間のリズムを毎日の24時間のリズムに合わせるため、光を受け時刻を認識することで体内リズムをリセットすることが重要になる。

光周性

一部の動物は、日長が長くなったり短くなったりという季節変化に対応して行動などを変化させる。例えば、特定の季節にのみ生殖活動を行ったり、冬に休眠したりすることが知られている。

関連リンク

 

  • 朝日新聞(12月8日 夕刊 14面)、京都新聞(12月8日 21面)および毎日新聞(12月8日 22面)に掲載されました。