造血幹細胞や免疫細胞を造る司令塔細胞(ニッシェ)の正体をつきとめました

造血幹細胞や免疫細胞を造る司令塔細胞(ニッシェ)の正体をつきとめました

2010年9月17日


左から長澤教授、尾松芳樹 研究員

 長澤丘司 再生医科学研究所教授らの研究グループの研究成果が、米国免疫学専門誌「Immunity」誌に掲載されました。

研究成果の概要

 免疫を司るリンパ球や、からだ中に酸素を運ぶ赤血球など血液細胞は、すべて骨髄(骨の中心部の空間)で造血幹細胞と呼ばれる幹細胞から毎日造られている。しかし、体外の試験管内で正常な血液細胞を造り続けることはできない。これは骨髄には造血幹細胞の維持や分化(血液細胞になるため変化すること)を調節する特別な細胞(ニッシェ)が存在することによると考えられていたが、その正体は長年なぞであった。
私たちは、CAR細胞と呼ばれる突起を持った細胞の大部分が、脂肪を蓄える脂肪細胞や骨を造る骨芽細胞に分化することができる未分化な細胞(前駆細胞)で、生体からこの細胞だけを除くと骨髄で造血幹細胞やBリンパ球、赤血球の増殖ができなくなり数が減少し、造血幹細胞の分化が進んでしまうことを明らかにした。これより、脂肪細胞や骨芽細胞の前駆細胞であるCAR細胞が造血幹細胞の未分化性の維持や増殖、免疫細胞・赤血球を造る司令塔細胞(ニッシェ)であることが証明された。


図1:
GFP(緑色蛍光たんぱく質)で可視化したCAR細胞

図2:
CAR細胞の造血幹細胞、造血、骨髄形成における役割

研究成果の意義

  1. “造血幹細胞や免疫細胞を造る司令塔細胞(ニッシェ)の実体”という免疫学・血液学における長年の謎が明らかになった。
  2. 骨髄の脂肪・骨芽細胞前駆細胞の実体が明らかになった。
  3. ニッシェは造血幹細胞を維持する機能を持っているので、幹細胞の維持や分化を調節するしくみを解明する研究の重要な基盤となる。
  4. 血液細胞の産生の調節は、骨髄幹細胞移植後の回復、重症感染症の治療に重要であり、骨髄幹細胞移植は、がんや自己免疫性疾患の根治療法に重要である。したがって、血液細胞の産生を調節する新しい薬物の標的分子の同定につながる。
  5. 再生医療におけるニッシェ細胞を用いた造血幹細胞、前駆細胞、血液細胞の増幅法の開発につながる。
  6. 抗がん剤が効かないまたは投与後再発する白血病では白血病の幹細胞が造血幹細胞ニッシェに守られていることが想定されている。したがって、白血病幹細胞との接着を阻害し抗がん剤の効果を高めるニッシェを標的とした新しい治療薬の開発につながる。
  7. CAR細胞そのものが間質系前駆細胞(幹細胞)として整形外科領域等での再生医療に利用できる可能性がある。

関連リンク

  • 論文は、以下に掲載されております。
    http://dx.doi.org/10.1016/j.immuni.2010.08.017

     
  • 朝日新聞(10月5日 18面)、京都新聞(9月17日 26面)、日刊工業新聞(9月17日 22面)、日本経済新聞(9月17日夕刊 18面)、毎日新聞(10月2日 22面)および読売新聞(9月17日 2面)に掲載されました。