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植物病原性カビの新たな侵入戦略の発見

2010年7月7日


左から晝間日本学術振興会特別
研究員、髙野准教授

 髙野義孝 農学研究科准教授、晝間敬 日本学術振興会特別研究員らの研究グループは、植物病原性カビが獲得した、これまでの常識を覆す新たな侵入戦略を発見しました。本研究成果は、米国「Plant Cell」誌のオンライン速報版で公開されました。

  • 論文名
    Entry mode-dependent function of an indole glucosinolate pathway in Arabidopsis for nonhost resistance against anthracnose pathogens.

研究の背景

 病害による世界の農業生産被害は10~20%といわれており、これは8億人の食糧に値します。この植物病害の80%以上は、糸状菌(カビ・菌類)によって引き起こされており、植物病原性カビから作物を保護することは、とても重要です。

 植物に感染するために、病原性カビの胞子は、まず植物の種のように発芽し、続いて「付着器」と呼ばれるドーム状の特殊な細胞を植物表面に形成します。炭疽病菌は様々な作物に病害を引き起こす重要病原菌ですが、このカビが形成する付着器は、メラニンによって着色し、このメラニン化した付着器は、植物への侵入プロセスに必須です(図1)。これを裏付けるように、メラニン合成を阻害する化合物は、炭疽病菌を含む様々な植物病原性カビに対する有効性の高い農薬として広く使用されています。

    

  1. 図1:植物病原性カビの従来型および新たに発見された侵入の方法

研究成果の概要

 しかし、 研究グループが、病原性カビである炭疽病菌の非宿主植物上(宿主ではない植物)での侵入行動を研究する過程で、驚くべきことに、炭疽病菌が、従来型の付着器を形成することなく植物に侵入する能力があることが発見されました。この新たな侵入様式では、カビは発芽後、その発芽管様の構造から、直接的に植物組織内に侵入菌糸を形成します(図1、図2)。この発見は、これまでの炭疽病菌の侵入方法の常識を大きく覆すものです。また、この侵入行動は、植物に傷がある場所において優先的に観察され、このことは、カビが植物の状態を感知して、それに適した侵入戦略を選択していることを示唆しています(図3)。

    

  1. 図2:植物病原性カビ(炭疽病菌)が、従来型の付着器を介さずに侵入菌糸を形成している様子。
    発芽管様の構造から、侵入菌糸(赤色)が形成されている。なお、侵入菌糸は植物細胞膜(緑)によって囲まれている。スケールバーは10µm

    

  1. 図3:発見された新たな侵入様式は、傷口周辺において顕著に誘導される。
    傷がない場合(通常)では、植物病原性カビは、メラニン化した付着器を形成している。スケールバーは10µm

 発見した侵入様式に対しては、上述のメラニン合成阻害剤は効果がありません。さらに、植物側の防御反応(インドールグルコシノレート経路が関与する)が与える抑止効果が、従来型と新型の侵入様式の間では大きく異なっていることが明らかになりました。これらの発見は、従来型による攻撃への対策とは異なった作物保護技術を、この新たな感染戦略に対して適用する必要があることを物語っています。本侵入様式についてさらに研究をすすめていくことで、害虫の攻撃あるいは収穫作業などで生じる微細な傷からのカビの感染を防ぐための、より効果的な防除技術の開発に貢献できると期待されます。

関連リンク

 

  • 朝日新聞(7月20日 17面)、京都新聞(7月7日 23面)、産経新聞(7月7日 25面)、中日新聞(7月7日 25面)および日刊工業新聞(7月7日 19面)に掲載されました。