CCR1阻害薬が未分化骨髄球の集積を阻害して大腸がん転移を抑制することを解明

CCR1阻害薬が未分化骨髄球の集積を阻害して大腸がん転移を抑制することを解明

2010年6月29日 


左から藤下研究員、武藤教授、青木准教授、北村剛規助教(現在留学中)

 武藤 誠 医学研究科教授らの研究グループは、CCR1(CCケモカイン受容体1) の阻害薬が、未分化骨髄球の集積を阻害することによって大腸がんの肝臓への転移を抑制することを初めて明らかにし、この研究成果が米国科学アカデミー紀要(オンライン版)に掲載されました。

  • 原著論文:
    CCR1の阻害は、未分化骨髄球の集積を阻害することで大腸がん細胞の肝転移を抑制する
  • 原著者:
    北村剛規、藤下晃章、Pius Loetscher、 Laszlo Revesz、橋田裕毅、近藤科江、青木正博、武藤誠
    (医学研究科、遺伝薬理学と放射線腫瘍学・画像応用治療学、ノバルティスファーマ、および北野病院外科)

研究成果の概要

 がんは死亡原因の第1位であり、中でも大腸がんによる死亡率は近年急激に増加している。多くの場合、がん組織の切除が治療の第一となるが、転移を伴うがんの治療方法は確立していない。
我々は以前に大腸がんマウスモデルを用いてがん細胞が周辺組織に浸潤するメカニズムの一端を解明した(北村ら、Nature Genetics 誌39号:467ページ、 2007年)。すなわち、大腸がん細胞から分泌されるケモカインCCL9がその受容体であるCCR1を持つ未分化骨髄球(骨髄由来の未分化な細胞)をがん細胞の周囲に引き寄せ、この未分化骨髄球がマトリックス・メタロプロテアーゼと呼ばれる細胞外基質を分解する酵素を放出し、正常組織を脆弱にすることでがん細胞が組織内を移動、浸潤しやすい環境にするというものである。しかしながらこの未分化骨髄球の遠隔転移における重要性は明確ではなかった。
本研究では、大腸がんの肝転移における未分化骨髄球の役割を解明することを目的とし、更に未分化骨髄球を標的とした転移がんの予防・治療法の開発を視野に入れ、CCR1阻害薬の大腸がん肝転移抑制効果を検討し、以下のことを明らかにした。

  1. 大腸がんが肝臓に転移する際、肝臓に播種した大腸がん細胞が分泌するケモカイン(マウスではCCL9、ヒトではCCL15)は、CCR1陽性の未分化骨髄球を周囲に引き寄せる。
  2. がん細胞の周辺に引き寄せられた未分化骨髄球はマトリックス・メタロプロテアーゼ (MMP9,MMP2)を産生し、それらが周辺組織を脆弱化することで転移巣の拡大に寄与する。
  3. CCR1を発現しない遺伝子改変マウスでは、未分化骨髄球が集積できず、大腸がん細胞の肝転移が抑制される。さらにCCR1阻害薬を投与すると転移巣の拡大は抑制され、マウスの生存期間も有意に延長した。

    

 これらの結果から、CCR1の阻害薬は未分化骨髄球の集積を阻害することによって転移を有意に抑制し、延命効果をもたらすことが示された。この成果は、がん細胞自身ではなくマトリックス・メタロプロテアーゼを産生する特定の細胞種を標的とした、全く新しい大腸がん転移の予防・治療法につながる可能性がある。

関連リンク

 

  • 京都新聞(6月29日 25面)、産経新聞(6月29日 26面)、日刊工業新聞(6月29日 32面)、日本経済新聞(6月29日 42面)、毎日新聞(6月29日 28面)および読売新聞(6月29日 2面)に掲載されました。