治療抵抗性慢性骨髄性白血病に対する新規薬剤の前臨床研究について

治療抵抗性慢性骨髄性白血病に対する新規薬剤の前臨床研究について

2010年6月16日

 慢性骨髄性白血病(Chronic Myeloid Leukemia, CML)の治療は分子標的治療薬イマチニブ(グリベック、Novartis社)の出現により大きなパラダイムシフトをとげました。すなわち、多くのCML患者さんはイマチニブにより生存期間の驚くべき延長がみられるようになりました。しかし、イマチニブに抵抗性を示す患者さんも少なからずみられ、その半数以上はイマチニブが結合する相手であるBCR-ABLと言うCMLに特異的な異常蛋白質が遺伝子変異により形を変えるために、結合できなくなるためであることが判明しております。その遺伝子異常はすでに90種類以上の報告があります。

 これらの遺伝子異常を克服できる薬剤として、ダサチニブ(スプリセル、ブリストル・マイヤーズ社)およびニロチニブ(タシグナ、ノバルテイス社)、ボスチニブ(ファイザー社)、それに我々が開発してきたバフェチニブ(日本新薬、サイトレックス社)があり、前2者はすでに保険適応されており、後2者は現在臨床開発中であります。

 しかし、T315Iと呼ばれる遺伝子変異(315番目のアミノ酸のスレオニン(T)がイソロイシン(I)に変化していると言う意味)をもつCML症例はこれらの薬剤のいずれにも抵抗性を示し、この遺伝子変異が認められた患者さんは移植治療以外に現時点では治療の方法がありませんでした。

 医学部附属病院輸血細胞治療部は、イギリスのAstex社と共同でAT9283と呼ばれるマルチキナーゼ阻害剤(オーロラキナーゼ阻害剤)がこのT315Iの遺伝子異常をもつCML細胞の増殖を抑制できることを見出し、T315I遺伝子異常を有する白血病細胞を移植したマウスの生存期間を有意に延長できることを見出しました。臨床開発はまだ今後の課題ですが、T315I遺伝子を有する難治性のCML患者さんに対するあたらしい治療法として開発されることを期待しています。

 なお、本研究成果は米国の血液専門誌であるBLOODに、平成22年6月14日にオンライン掲載されました。

    

  1. 図1.AT9283の構造

    

  1. 図2.Model of AT9283 bound with ABL
    (A) AT9283 is modelled bound within the active site of BCR-ABL with Threonine 315 (T315) highlighted in red. (B) There is no clash with this residue upon mutation to Isoleucine. Co-localization of AT9283 (green) and imatinib (yellow) with T315I mutated BCR-ABL.

関連リンク

 

  • 朝日新聞(6月19日夕刊 13面)、京都新聞(6月17日 25面)および日本経済新聞(6月17日 34面)に掲載されました。