セクション

暑さから身を守るための温度感覚の仕組みを解明

2010年4月27日


中村特定助教

 中村和弘 生命科学系キャリアパス形成ユニット特定助教らのグループは、暑熱環境で体温が上昇してしまわないようにするために恒温動物に備わった、温度感覚伝達の脳神経メカニズムを解明し、この研究成果が米国科学アカデミー紀要(オンライン版)で公開されました。

  • 論文名:
    A thermosensory pathway mediating heat-defense responses
  • 著者(2名):
    中村和弘(Kazuhiro Nakamura、京都大学生命科学系キャリアパス形成ユニット・特定助教)
    ショーン・モリソン(Shaun F Morrison、米国・オレゴン健康科学大学・シニア科学者)

研究成果の概要

 人間を含めた恒温動物は、暑熱環境中では、体温が上昇してしまわないように、自律的に(つまり意識や意志とは関係なく)皮膚血管を拡張させ、体表面の血流を増加させることで体の熱を周囲に放散させます。このとき、環境の温度が高いことを、皮膚に存在する温度受容器で感知し、脊髄で中継されたその情報が、脳内の視索前野(しさくぜんや)と呼ばれる部位にある体温調節中枢にいち早く伝達される必要があります。

 私達のこれまでの研究から、意識の上で感じる暑さや寒さなどの皮膚温度感覚を脳に伝達する仕組みを破壊しても、こうした自律的な体温調節機能に影響がないので、体温の調節に必要な温度情報は、意識の上で温度を知覚するための感覚情報の伝達とは異なった仕組みで脳内を伝わることが示唆されていました。しかし、暑い環境で体から熱を放散させるために必要な温度情報が、どのような脳内の仕組みで体温調節中枢へ伝達されるのかは全く分かっていませんでした。

 今回、ラットを用いた私達の実験から、皮膚を温めたときに活性化される神経細胞が、橋(きょう)と呼ばれる脳領域にある結合腕傍核(けつごうわんぼうかく)という名前の部位に密集して存在し、さらに、その神経細胞が暑さに関する情報を体温調節中枢へ直接伝達することを発見しました(図1)。また、胴体周囲を広範囲に温めて、暑熱環境に似た状態にすると、ラットの足の裏や尻尾の皮膚血流が増加する放熱反応が見られますが、結合腕傍核の神経伝達を抑制すると、この放熱反応が起こらなくなりました。そして、結合腕傍核の神経細胞を活性化すると、胴体周囲を温めた時と同じような放熱反応が起こりました。

    

  1. 図1: 体温調節中枢に情報を伝達する結合腕傍核の神経細胞(茶色、左、矢頭)が、暑熱環境(右、36℃)に動物を置いた場合、活性化されたことを示すマーカー(濃紫色)を発現する(矢印)。右下の横棒は、30マイクロメーターの長さを示す。

 これらの実験結果は、意識の上で「暑い」と感じる感覚とは別に、暑さの感覚が皮膚から脊髄—結合腕傍核を経て体温調節中枢へと神経伝達され、その「無意識下の感覚」が、暑熱環境中でも体温を一定に保つための生命機能に必要であることを示しています(図2)。

    

  1. 図2: 本研究から明らかになった、「暑さ」の皮膚感覚を体温調節中枢に伝える神経経路。皮膚の温受容器で感知された「暑さ」の温度情報は、脊髄で中継さ れ、結合腕傍核へ伝達される(実線)。結合腕傍核の神経細胞は、その情報を体温調節中枢へ直接伝達し、その情報を受けた体温調節中枢は、体の熱を積極的に 放散させるために皮膚の血管を拡張したり、体内の熱の産生を抑制するための指令を出す。一方、意識の上で「暑い」と感じる神経経路(破線)は、脊髄−視床を経て大脳皮質へと至る。Gluは、グルタミン酸という神経伝達物質によって神経伝達が行われるシナプスを示す。+印は、伝達先の神経細胞を活性化させることを示す。

本研究への支援

本研究プロジェクトは、以下の研究費・制度の支援を受けて行われたものです。

  • 文部科学省 科学技術振興調整費・若手研究者の自立的環境整備促進「わが国の将来を担う国際共同人材育成機構」
  • 平成21年度 日本学術振興会 科学研究費補助金(若手研究(スタートアップ))
  • 平成22年度 文部科学省 科学研究費補助金(若手研究(A))
  • 日本学術振興会 海外特別研究員制度
  • 米国・国立衛生研究所(NIH) R01グラント
  • 2009年度 武田科学振興財団 医学系研究奨励金
  • 平成21年度 興和生命科学振興財団 研究助成

 

  • 朝日新聞(5月25日 30面)、京都新聞(4月27日 27面)、産経新聞(4月27日 22面)、日本経済新聞(4月30日夕刊 20面)、日刊工業新聞(4月27日 24面)および毎日新聞(5月2日 20面)に掲載されました。