細胞の原形質流動のしくみを解く ~200年来の植物細胞の謎に迫る~

細胞の原形質流動のしくみを解く ~200年来の植物細胞の謎に迫る~

2010年3月23日


左から西村教授、上田特別研究員

 西村いくこ 理学研究科教授と上田晴子 特定研究員らの研究グループは、200年来の謎である植物細胞の原形質流動のしくみに迫る発見をし、この研究成果が、米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」のオンライン速報版で公開されます。

研究の背景

 植物の細胞の中には、核・葉緑体・ミトコンドリア・小胞体など様々な構造体が存在しています。植物細胞では、これらの構造体を含む細胞の内部(原形質)が流れるように動く現象が見られます。これは「原形質流動」と呼ばれ、速いところでは毎秒0.1ミリメートルというスピードに達します。

 原形質流動はダーウィンより古い1774年にイタリアで発見され、今では高等学校の教科書にも登場します。半世紀前に「モータータンパク質ミオシンが繊維状タンパク質アクチンのレール上を滑ることによって、原形質流動が引き起される」という“滑り説”が提唱されましたが、レール構築のしくみや構造体が流動するしくみは長く謎のままでした。

研究の概要

 小胞体は植物細胞の中で最大の表面積を持つ構造体で、細胞中にネットワーク状に張り巡らされています。私達は、この小胞体が川のように方向性を持って流れることに着目しました(図1)。この流れは、太いアクチンレールに沿って観察されました。モデル植物シロイヌナズナの特定のミオシン遺伝子を破壊すると、この小胞体の流れがストップし、さらにアクチンレールの秩序そのものが乱れることを発見しました(図2)。

    

  1. 図1:植物細胞の小胞体の流動。
    蛍光標識した小胞体(左)と本研究で開発したプログラムで作成した小胞体の流動速度分布地図(右)。川のように高速で流れる小胞体が筋を作る。矢印は流れの方向を示す。

    

  1. 図2:蛍光標識したアクチンレール。
    植物は方向の揃った太いアクチンレールを持っている(左)。一方、ミオシン遺伝子の欠損株のアクチンレールは乱れている(右)。

 私達は、「小胞体に結合したミオシンがアクチン上を滑りながらレールの方向を揃え、その上を滑ることによりさらに太い高速レールを構築している」という“小胞体ーミオシンーアクチンの三者相互作用モデル”を提唱しました(図3)。ミオシンがアクチンレールを滑ることは有名ですが、自分が滑るための高速レールの構築に関わるということは初めての発見です。三者が協調して作り出した高速レール上を、小胞体が様々な構造体を巻き込みながら流動する現象が、原形質流動の実体ではないかと考えています。

    

  1. 図3:小胞体とミオシンとアクチンの三者相互作用モデル。
    (A) ミオシンが小胞体に結合して、近傍のさまざまな方向を向いたアクチンレール上を滑り始める。
    (B) 小胞体が滑り運動を繰り返すことにより、アクチンレールの方向性が徐々に揃う。
    (C) 方向の揃った太い高速アクチンレールが構築され、これがさらに小胞体の流動を加速する。

論文共著者

上田晴子(京都大学大学院理学研究科・特定研究員)
横田悦雄(兵庫県立大学大学院生命理学研究科・助教)
朽名夏麿(東京大学大学院新領域創成科学研究科・特任助教)
嶋田知生(京都大学大学院理学研究科・講師)
田村謙太郎(京都大学大学院理学研究科・助教)
新免輝男(兵庫県立大学大学院生命理学研究科・教授)
馳澤盛一郎(東京大学大学院新領域創成科学研究科・教授)
Valerian V. Dolja(オレゴン州立大学・教授)
西村いくこ(京都大学大学院理学研究科・教授)

 

  • 京都新聞(3月23日 22面)、日刊工業新聞(3月23日 14面)および毎日新聞(3月23日 3面)に掲載されました。