小さいエネルギーでも可能な光合成水分解のメカニズムを解明しました

小さいエネルギーでも可能な光合成水分解のメカニズムを解明しました

2010年2月9日


左から三室教授、嶋田友一郎 研究員

 三室守 人間・環境学研究科教授らの研究グループの研究成果が、米国科学アカデミー紀要(電子版)に掲載されました。

  • 論文題名
    Redox potential of pheophytin a in photosystem II of two cyanobacteria having the different special pair chlorophylls
    "異なるスペシャルペアークロロフィルを持つシアノバクテリアの光化学系IIにおけるフェオフィチンの酸化還元電位)"
  • 掲載誌
    Proceedings of the National Academy of Science, USA (米国科学アカデミー紀要)
  • 著者
    Suleyman I. Allakhverdiev§、鞆 達也*、嶋田 友一郎§、金籐 隼人*、 長尾 遼*、Vyacheslav V. Klimov、三室 守§§京都大学大学院人間・環境学研究科、 *東京理科大学、ロシア科学アカデミー)

背景

 光合成は、地球に酸素と糖をもたらす反応で、「地球の生命維持装置」ということができる。

 光合成生物は、光のエネルギーを利用して、水を電気分解することによって酸素を作りだす。水の分解には高い電圧(=電位差)を掛けることが必要であるが、生物の中では、こうした高い電圧(基準電位(注)に対して1.1 V以上といわれる)を実現することは難しく、特別の方法が必要となる。水の電気分解反応は光合成反応系の最大の謎とされている。

 光合成反応では、クロロフィル(葉緑素)を使って光エネルギーを吸収し、発電を行う。これは太陽電池と同じ原理である。一般に光合成生物は、可視光を吸収するクロロフィルaを持つ。しかし、我々は、クロロフィルdを持ち、近赤外光を利用する唯一の例外である海産性シアノバクテリア(Acaryochloris spp., アカリオクロリス属)を再発見し(2004年, Science)、その発電反応にクロロフィルdが使われていることを明らかにしてきた(2007年, PNAS)。また、全ゲノムの解読を行った(2008年, PNAS)。しかし、クロロフィルdを使う場合、クロロフィルaと比較すると獲得できるエネルギー(電圧)が小さいために、どのように水分解反応が起こるか、解明が進んでいなかった。

研究成果

 本研究では、クロロフィルaと比較して、小さなエネルギー(電圧)しか獲得できないクロロフィルdを利用しても、水分解に必要な酸化電位(基準電位に対して+側の電圧)を作りだしていること、またこの電位がクロロフィルの種類によって変化しないこと(1.2 V)、を世界で初めて明らかにした。さらに、獲得できるエネルギー(電圧)が小さい場合、酸化電位は還元電位(基準電位に対して-側の電圧)を小さく(低く)することで実現されていることを直接的な電位測定により証明した。

 これらの結果は、光合成生物はクロロフィルの種類(獲得できるエネルギーの大小)にかかわらず、一定の酸化電位を形成する仕組みを獲得し、水を分解する反応を行っていることを示している。これは同時に、光合成の水の電気分解(酸素発生)反応は、総て同じ原理で行われていることを強く示唆している。

波及効果

 小さいエネルギーでも水分解を可能とする方法、すなわち酸化還元電位を調節する仕組みがあることが明らかになったことにより、より広範囲の波長の光を利用して、次世代エネルギーの獲得のための可能性が拓かれるなど大きな波及効果が期待される。さらに、光合成酸素発生(水の電気分解)反応の電位に関する基本的な仕組みが明らかになったことにより、光合成生物を利用してエネルギー獲得系を構築する時に、変えることのできない基準点、すなわち基本指針が明示されたことになる。

本研究への支援

 この研究は、日本学術振興会からの科学研究費補助金(学術創成研究)の援助を得て行われた。

(注)基準電位

酸化還元電位は水素電極を基準として決められる。

 

  • 京都新聞(2月9日 29面)、産経新聞(2月9日 24面)、日刊工業新聞(2月9日 26面)、日経産業新聞(2月9日 11面)および読売新聞(2月22日 13面)に掲載されました。