iPS細胞の作成を、癌抑制遺伝子が阻害していることを発見

iPS細胞の作成を、癌抑制遺伝子が阻害していることを発見

2009年8月10日


左から鈴木研究員、川村特定助教

 川村晃久 生命科学系キャリアパス形成ユニット特定助教と鈴木丈太郎 アステラス製薬研究本部分子医学研究所主任研究員らは、米国ソーク研究所(Salk Institute for Biological Studies)のGene Expression Laboratory(Juan Carlos Izpisúa Belmonte(教授)およびGeoffrey M. Wahl(教授))のグループとともに、p53と呼ばれる癌抑制遺伝子がiPS細胞の形成を阻害していることを見出しました。この研究成果は、8月10日(日本時間)のNatureオンライン版に掲載されました。

  • 発表論文
    タイトル:Linking the p53 tumour suppressor pathway to somatic cell reprogramming.
    著者:Teruhisa Kawamura(※), Jotaro Suzuki(※), Yunyuan V. Wang, Sergio Menendez, Laura Battle Morera, Angel Raya, Geoffrey M. Wahl & Juan Carlos Izpisúa Belmonte
    ※筆頭著者として同等の貢献
    学術誌:Nature 2009 in press

研究成果の概要

 p53は,腫瘍の発生を抑える働きのある重要な癌抑制遺伝子で「ゲノムの守護神(guardian of the genome)」との異名をもち、本遺伝子の異常は,癌細胞において高率に発見されている。2006年に山中伸弥教授(京都大学)らは,3~4つの遺伝子によって体細胞からiPS細胞という人工的な多能性幹細胞(万能細胞)を作り出すことに成功した。このiPS細胞の作成の過程は「再プログラミング(初期化)」と呼ばれるが、実際に体細胞が初期化されiPS細胞になる確率は非常に低い。今回の研究成果により、この「再プログラミング」をp53が抑制していたことが明らかになった(図1)。p53の機能を低下させたヒトやマウスの細胞を用いると、高率でiPS細胞を作製することができた(図2)。さらにp53の機能が低下した細胞は,当初山中教授らがiPS細胞の作製に必要と発表した4因子のうち2つを加えるだけでiPS細胞になることができた(図2)。初期化を促すことにより、体細胞のなかでは、癌抑制遺伝子p53が活性化され、iPS細胞形成が強力に抑えられていると考えられた(図1)。iPS細胞の作成と発癌との間に何らかの関わりがあることが推測される。

 このように、本研究は、未解明な「再プログラミング」の仕組みの一端を明らかにし、将来のiPS細胞の臨床応用に向けたより安全かつ簡便で効率的なiPS細胞作成法の確立に役立つものと考えられる。


図1. 再プログラミングの過程で、癌抑制遺伝子p53が活性化される


図2. p53 遺伝子の量は初期化の成功率の鍵を握る

  • 京都新聞(8月10日 1面)、産経新聞(8月10日 2面)、中日新聞(8月10日 3面)、日刊工業新聞(8月10日 15面)、日本経済新聞(8月10日 12面)および読売新聞(8月10日 2面)に掲載されました。