抗癌剤タキソールのナノ・ミサイル療法を考案

抗癌剤タキソールのナノ・ミサイル療法を考案

2009年6月30日

 玄 丞烋 再生医科学研究所准教授らの研究グループは、葉酸を固定化させた水溶性タキソールが市販のタキソールよりも担癌マウスに対して、著しい癌増殖抑制効果と延命効果があることを示しました。

 写真は玄丞烋 准教授(左)と中村淳一 医学研究科 大学院生(右)

背景

 抗癌剤パクリタキセル(タキソール)は、イチイの葉から抽出されて合成した抗癌剤で肺癌、卵巣癌、胃癌等に効果があるとされ、現在も臨床で広く使われている。しかし、親水性の低い薬剤のため可溶化剤として患者の3割が副作用を引き起こすポリオキシエチレンひまし油(クレモホールEL)を使用しているという問題がある。本研究では天然高分子であるデキストランを用いて水溶性タキソールを合成した。さらに葉酸レセプターを過剰発現している一部の癌に対して特異的に薬効を発揮させるため、葉酸を水溶性タキソールに固定化し癌ターゲッティング剤を作成した。葉酸を固定化させた水溶性タキソールは市販のタキソールよりも担癌マウスに対して、著しい癌増殖抑制効果と延命効果を示した。

実験

 デキストランにエチレンジアミンを反応させてアミノ化デキストランを合成し、そのアミノ基にタキソールを結合させることにより水溶性タキソールを合成した。次に、葉酸を水溶性タキソールとともにPBS中で一晩混合させることで吸着固定化することで、100ナノmの超微粒子を調整した。葉酸レセプターの高発現しているKB細胞(ヒト咽頭がん由来)をヌードマウスの背部皮下に移植して担癌マウスを作成した。得られた葉酸吸着水溶性タキソールを担癌マウスの尾静脈より投与して抗癌効果及び延命効果について検討した。

結果と考察

 葉酸を固定化させた水溶性タキソールは市販のタキソール群より長期的に抗癌効果を発揮した(図1(A))。これは、葉酸レセプターを過剰発現しているKB細胞が葉酸固定化した水溶性タキソールを選択的に取り込んでいると示唆された。また、この抗癌効果に比例して、最も高い抗癌効果を示した葉酸吸着水溶性タキソール群が市販のタキソール群よりも、2ヶ月以上も長い延命効果を与えていた(図1(B))。

図1. 担癌マウスを用いた各投与サンプルの抗癌効果(A)と延命効果(B)

用語解説

パクリタキセル

親水性及び親油性の低い薬剤。細胞増殖阻害効果により抗がん効果を発揮する抗癌剤。主に、卵巣癌、乳癌、胃癌などに効果があるとされている。

デキストラン

天然高分子多糖で、水・有機溶媒によく溶ける。医療分野において代替血漿として利用されている。DDS分野ではキャリアとして古くから用いられている。

葉酸

水溶性ビタミンで体内に吸収されると最終的に補酵素として役割を担う。また、細胞増殖に関与しているおり特定の癌細胞においては葉酸レセプターを高発現している。弱アルカリ性の水溶液や一部の有機溶媒に溶解する。

ターゲッティング効果

特異的に標的とする細胞・組織に対して薬剤に標的指向性を与え薬効を増加させ、また正常細胞への影響を弱め副作用の軽減などの効果がある。

  • 京都新聞(7月1日 25面)、産経新聞(7月1日 3面)、日刊工業新聞(7月1日 23面)、日経産業新聞(7月1日 11面)および毎日新聞(7月1日 23面)に掲載されました。