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不感時間ゼロの荷電粒子多重計測に成功 - XFELによる単分子構造解析に向けた大きな一歩 -

2009年3月18日

東北大学多元物質科学研究所
京都大学大学院理学研究科
独立行政法人理化学研究所
財団法人高輝度光科学研究センター

 東北大学多元物質科学研究所の上田潔教授、京都大学大学院理学研究科の八尾誠教授、独立行政法人産業技術総合研究所計測標準研究部門の齋藤則生室長、マックス・プランク研究所、フランクフルト大学の共同研究チームと、独立行政法人理化学研究所と財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)が組織するX線自由電子レーザー計画合同推進本部の合同研究グループは、不感時間ゼロで多数の荷電粒子を計測するシステムを開発しました。これを用いて、独立行政法人理化学研究所播磨研究所において建設中のX線自由電子レーザー(XFEL)の試験機(SCSS試験加速器)から発生する極紫外領域の高強度のレーザー光を100個以上の原子から構成される希ガスクラスターに照射すると一瞬にして生じる数十個のイオンを、不感時間ゼロで計測することに成功しました。本成果により、個々の生体分子、ナノ構造体の向きを決めることができ、XFELによる単分子構造決定が可能になりました。

 本研究成果は、科学雑誌『Physical Review A』掲載に先立ち、オンライン版に近日中に掲載されます。
  また、本研究成果は、文部科学省 X線自由電子レーザー利用推進研究課題の事業として行われたものです。

ポイント

  • 不感時間ゼロで多数の荷電粒子の検出に成功。
  • ナノクラスターのクーロン爆発に光強度・クラスターサイズ依存性の発見。
  • 空間中の単分子の方向を決定でき、XFELによる構造解析が可能に。

研究成果の概要

背景

 XFELは原子の大きさと同程度の波長をもつ、位相がそろった極めて強い光であり、自然界には存在しない夢の光である。そのため現在、日本、米国、欧州が競ってXFELの開発を進めている。XFELを用いた研究の一つとして、X線回折による単分子構造解析が大きく期待されている。現在用いられている構造解析法では、X線強度が不十分なため分子を結晶化することが必要とされる。しかし膜タンパク質などは結晶化しづらいため、単分子構造解析が可能となれば、医学や創薬研究に大きな一石を投じることとなる。単分子によるX線回折は非常に微弱と推測され、効率よく単分子構造解析を行うために分子の向きを決定する手法の開発が待ち望まれていた。
   分子の向きを決定するには分子から放出されるイオンの放出方向を測定することが有効とされる。しかし、XFELは非常に強力な光である一方で、あまりに強い光強度のために、測定対象であるタンパク質のような巨大分子に照射すると大量のイオンが放出される。そのため、起きている現象を測定するための計測システムが追いつかないことが危惧され、多数の荷電粒子を測定可能な不感時間ゼロのシステムが必要とされていた。

研究開発手法

 従来の計測法では、荷電粒子が検出器に到達したときに発生する信号からハードウェアで時間情報を抽出し、それをコンピューター上に保存していた。この方法では、2個以上の荷電粒子がほぼ同時に検出器に到達した場合、信号が重なるために1つの粒子検出としか認識されない。新しく開発した手法では、最新のエレクトロニクスを駆使して荷電粒子の検出信号を波形としてそのままコンピューターに保存し、ソフトウェアで処理することで、重なり合った検出信号から元の信号の情報を引き出すことに成功し、ほぼ同時に検出器に到達した粒子をも区別することが可能となった。


図1.従来法(左)と新方式(右)の比較

研究成果

 本研究では、理化学研究所播磨研究所に建設されたSCSS試験加速器から発生する極紫外自由電子レーザーを、東北大学多元物質科学研究所で作成した集光ミラーを用いて100個以上の原子から構成される希ガスクラスターに照射し、その結果生じるイオンを測定した。クラスターに自由電子レーザーのような強い光を照射すると、クラスターを構成する各々の原子から電子がはぎとられて生成したイオンが電気的な反発力によって運動エネルギーを持って放出される(クーロン爆発)。今回の測定では数十個のイオンを一度に検出し、それぞれの放出方向と運動エネルギーを測定することに成功した。クラスターを構成する原子の個数を変えながら、また照射する光の強度を変えながら測定を行い、クラスターを構成する原子の個数が大きくなればなるほど、また光の強度が強くなればなるほど、1個のクラスターが吸収する光子の数が増大し、大きな運動エネルギーをもつイオンを放出する様子が観測された。


図2.実験の概念図


図3.運動エネルギー分布の光強度依存性(左)とクラスター構成原子数依存性(右)

 

今後の展望

 本成果を、個々の生体分子、ナノ構造体に応用することによって、単分子の向きを決定することが可能となり、XFELによる単分子構造解析実現に非常に明るい見通しを与える。今後、本計測法はXFEL利用実験における標準的な計測法となることが期待され、基礎科学分野のみならず、医学や創薬、材料の研究にも幅広く貢献していくことが期待される。

 

  • 科学技術新聞(4月3日 4面)に掲載されました。