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宇宙の天気の鍵を握るは太陽のアネモネ(イソギンチャク)であることを発見

2008年2月23日


左から柴田一成 京都大学理学研究科教授、浅井歩 国立天文台野辺山太陽電波観測所助教

 柴田 一成 理学研究科附属天文台教授を代表とする研究グループは、現在、学術創成研究「宇宙天気予報の基礎研究」を進めております。

 このたび、柴田教授らの研究グループは、浅井歩 国立天文台野辺山太陽電波観測所 助教とともに、この宇宙天気を左右する太陽表面の構造として、「アネモネ型活動領域」が非常に重要であることを突き止めました。

研究成果の概要

 太陽表面では、太陽系内最大の爆発現象である「太陽フレア」を筆頭に、活発な現象が絶えず起きています。この太陽フレアなどに伴い、衝撃波や大量のプラズマが宇宙空間に放出されることがたびたびあり、それらが地球に向かって飛んでくると、磁気嵐となって、地球磁気圏に作用してオーロラを発生させたり、地球周辺の人工衛星を故障させるなどのため私たちの生活に影響を及ぼしたりすることがあります。そのため、磁気嵐の発生や地球周辺のプラズマや磁場の状況を『宇宙天気』として予報することが、現代の文明社会を守るために必要とされるようになり、そういった宇宙天気に関する研究が世界的に行われています。
   日本でも、京都大学の柴田教授を代表とする、学術創成研究「宇宙天気予報の基礎研究」が現在進められています。これは、「現代社会の基盤をゆるがす宇宙の嵐を解明し、『宇宙天気』の予報の基礎を築く」ことを目的としており、そのために、太陽や太陽風から地球磁気圏・電離圏といったさまざまに細分化されている研究分野を横断的にまとめ、太陽から地球に至るまでを一つのシステムとして扱って研究を推進するものです。この学術創成研究の一環として私たちは、磁気嵐の原因となる現象を太陽から地球に至るさまざまな観測データを用いて調べ、この宇宙天気を左右する太陽表面の構造として、『アネモネ型活動領域』が非常に重要であることを突き止めました。

 アネモネ型活動領域というのは、その形状がまるでイソギンチャク(英語名で“sea-anemone”)のように見えることから、こう呼ばれるようになりました(もともとは「ようこう」衛星のX線データでも観測されており、データ解析していた若者たちが、面白がって「アネモネ」と呼んでいたら、それがそのまま准専門用語となってしまったのです)。アネモネ型活動領域は、「コロナホール」と呼ばれる周辺よりもプラズマの密度が低い、暗い領域に発生することが知られています。コロナホールは、単極の磁場構造が惑星間空間にまで伸びており、太陽表面に戻ってこない、開いた磁力線が集まった領域です。この磁力線に沿って、速い太陽風が吹いていることも知られています。
   私たちは、2005年8月22日に発生した太陽フレアやそれに伴う噴出現象と、その結果8月24日に発生した巨大磁気嵐について、太陽表面から地球近傍までのあらゆるデータを駆使して、これらのイベントを詳細に追跡しました。そして以下に挙げることが分かりました。

  1. この活動領域はコロナホール中に出現した、典型的なアネモネ型活動領域であることがわかりました。
  2. 二つの太陽フレアとそれに伴う噴出現象が発生しており、地球に向かって伝播する間に相互作用(合体)することで、複雑な磁場構造が形成されている可能性がわかりました。
  3. 噴出現象の速度が、(平均に比べて)飛び抜けて速いことが分かりました。噴出現象の伝播速度は、大きいほど地球磁気圏により強い衝撃を与え、大きな磁気嵐を引き起こすことが知られています。

 今回のイベントでは、アネモネ型活動領域は、速い噴出現象を生じるのに適した環境である可能性を示しており、二つの噴出現象が複雑に作用しあった効果とあいまって、非常に強い擾乱を地球磁気圏に与え、巨大磁気嵐を引き起こしたものと解釈されました。このようにアネモネ型活動領域は、大きな磁気嵐を引き起こす可能性がある活動領域であり、宇宙天気研究においても無視できない「擾乱源」となり得ることがわかりました。

 この研究成果は、2009年2月21日に『Journal of Geophysical Research (ジャーナル・オブ・ジオフィジカル・リサーチ)』誌電子版に掲載されました(著者は以下のメンバー)。なお、論文のタイトルは「Evolution of the anemone AR NOAA 10798 and the related geo-effective flares and CMEs (和訳; アネモネ型活動領域NOAA 10798の成長と、地球に影響を与えたフレアとCME)」です。なお、筆頭著者の浅井博士は、京都大学大学院理学研究科附属天文台で博士号を取得し、現在は国立天文台野辺山太陽電波観測所で助教として、太陽物理学の研究を行っています。

浅井 歩 (あさい あゆみ) 国立天文台野辺山太陽電波観測所・助教
柴田 一成 (しばた かずなり) 京都大学大学院理学研究科附属天文台・教授、台長
石井 貴子 (いしい たかこ) 京都大学大学院理学研究科附属天文台・ポスドク研究員
岡 光夫 (おか みつお) アラバマ大学ハンツビル校・宇宙プラズマ超高層大気研究センター・ポスドク研究員
片岡 龍峰 (かたおか りゅうほう) 理化学研究所・ポスドク研究員
藤木 謙一 (ふじき けんいち) 名古屋大学太陽地球環境研究所・助教
Nat Gopalswamy (ナット ゴパルスワミー) アメリカ航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センター・教授

論文の図の抜粋とその解説

論文には全部で図が9枚あるが、以下の5枚を抜粋。

図1: 2005年8月22日のフレアと24日の磁気嵐の概要を示したプロット(横軸の時刻は世界時で表記)。1段目はGOES衛星によるX線強度の変化。×印で示したのが8月22日のフレア(2つ)。2段目は同じくGOESによる高エネルギー陽子の変化。フレアの直後に急激に上昇していることが分かる。3段目、4段目はACE衛星による、太陽風速度と磁場強度の変化。破線は衝撃波がACE衛星の近傍を通過した時刻を示している(このとき太陽風速度や磁場強度が不連続に上昇している)。5段目は磁気嵐の指標となるDst指標(下に下がるほど大きな擾乱)。衝撃波の通過後から急激に減少し、巨大な磁気嵐が発生している。

図2: 活動領域NOAA 10798の時間発展の様子。上段は連続光画像(黒く見える領域が黒点)、中段は磁場画像(白黒は磁極の正負に相当する)、下段は紫外線画像。連続光画像、磁場画像はSOHO衛星搭載の観測装置MDIにより、また紫外線画像はSOHO衛星のEIT望遠鏡により取得された。左から右に向かって、1日1枚ずつの画像を並べてある(日付は図の上に表記)。8月18日を過ぎてから急激に活動領域(黒点の対)が現れ、コロナではアネモネ型活動領域が形成されていることがわかる。(色は擬似カラー)

図5: 2005年8月20日、世界時0時ごろに撮影された、活動領域NOAA 10798のアネモネ構造の様子。左図はGOES衛星搭載のX線望遠鏡(SXI)によるX線画像、中図はSOHO衛星搭載のEIT望遠鏡による紫外線画像、右図はSOHO衛星のMDI観測装置による磁場画像。中央付近に活動領域NOAA 10798があり、X線・紫外線では明るく見える。その周りの暗い領域がコロナホールであり、磁場画像からは、正極(白)の磁場領域が広がっていることがわかる。(色は擬似カラー)

図6: アネモネ型活動領域の概念図。矢印付き実線で示したのは磁力線の構造。(a)単極の磁場を持つコロナホール(CH)中に活動領域が浮上してくる。N/Sは磁極の正/負を示す。(b)コロナホールの磁場と浮上してきた領域とが相互作用して、アネモネ型構造を形成する。(c)噴出現象を伴う太陽フレアが発生する。(d)太陽から噴出されたプラズマや衝撃波が、フラックスロープと呼ばれる構造を惑星間空間で形成し(図中円柱で示してある)、磁力線に沿って地球方向へ伝播してくる。噴出物の伝播は灰色の破線矢印で示してある。

図7: SOHO衛星搭載のLASCO望遠鏡により撮影された、2005年8月22日のフレアに伴う噴出現象(「コロナ質量放出現象(CME)」と呼ばれる)の様子。2回のフレアのそれぞれに伴い、噴出現象が起きている (図中、矢印で示してある)。図の中央に、SOHO衛星のEIT望遠鏡による、太陽の紫外線画像を埋め込んである。図中の数字は観測された時刻(世界時)を示す。(色は擬似カラー)
 

  • 京都新聞(2月21日 30面)、中日新聞(2月21日 29面)、日本経済新聞(2月21日 34面)、毎日新聞(2月21日夕刊 10面)および読売新聞(2月21日 2面)に掲載されました。