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緑茶ポリフェノールを利用した新規抗がん剤の開発への期待!

2008年11月26日


左から再生医科学研究所の玄丞烋准教授、松村和明特任助教、開發邦宏大阪大学産業科学研究所助教

  緑茶には多種類のカテキンと呼ばれる一群のポリフェノールが含まれています。これらカテキン類はお茶の渋みの成分であり、抗酸化作用が注目され多くの健康食品に利用されてきました。また、お茶に含まれるカテキン類の主成分であるエピガロカテキンガレート(EGCG)は最も高い抗酸化活性、抗ウイルス活性、抗ガン作用、抗菌作用などの様々な生理活性を有する天然物として注目を集めています。しかし、EGCGは生理的条件下での化学構造安定性が低く、すぐに分解されてしまうことや細胞膜親和性が低いため十分に生理活性が発揮できないなどの問題から、医薬としての応用が限られていました。今回、玄 丞烋(げん しょうきゅう)再生医科学研究所准教授らの研究グループは、リパーゼ脂肪酸エステルの加水分解酵素)の触媒機能を利用し、EGCGに脂肪酸を導入することで、その化学構造安定性および細胞膜親和性を高める手法を開発しました(図1)。そして、EGCG脂肪酸誘導体を用いて、種々のガン細胞の増殖を抑制したり、担ガンマウスの腫瘍増殖を効果的に阻害することに成功しました。

研究成果の概要

  リパーゼ触媒を利用し、EGCGに炭素数4, 8, 16の直鎖飽和脂肪酸を修飾したEGCG脂肪酸誘導体(各EGCG-C4,EGCG-C8, EGCG-C16)を合成しました。それらについてのガン細胞および正常細胞への増殖抑制作用を調べ、その細胞増殖抑制機序を生化学的手法により調べました。ガン細胞はヒト結腸ガン細胞(Caco-2)およびマウス結腸ガン細胞(Colon26)を用い、正常細胞としてはラットの血管平滑筋細胞を使用しました。EGCGは生理的条件下の水溶液では容易に酸化され分解します。その際に過酸化水素を発生することが知られています。この過酸化水素が二次的に抗ガン作用として寄与している可能性があります。過酸化水素を除去するカタラーゼをいう酵素を添加した状態ではEGCGの細胞毒性が弱くなることからも確かめられました。今回合成したEGCG脂肪酸誘導体では過酸化水素の発生が抑制され、その安定性が向上したことがわかりました。細胞毒性に関してもEGCG-C16では、カタラーゼ添加でも細胞毒性は減弱せず、直接細胞との相互作用が高められたことが示唆されました。また、EGCG-C16はガン細胞への毒性が正常細胞よりも5倍程度高いことがわかりました。今回使用したガン細胞を含むガン細胞には上皮増殖因子受容体(EGFR)が過剰に発現していることがわかっており、EGCG-C16はこのEGFRが担う細胞増殖シグナルの伝達を阻止することでガン細胞をアポトーシス(自殺)に導いていることが確認されました。
  次に、皮下にColon26を播種して腫瘍を形成させた担ガンマウスに投与することでガン組織の増殖抑制効果を調べました。天然のEGCGは殆ど増殖抑制効果を示さないが、EGCG-C16は腫瘍サイズを顕著に抑制することを確認しました(図2)。

  以上の研究成果により、人類が最も愛飲する茶カテキン成分に簡便・効率的に脂肪酸を導入することで、副作用の少ない抗ガン剤を供給できることが期待できます。

図1 リパーゼによるEGCGへの脂肪酸導入反応

図2 マウスを用いた動物実験におけるEGCG誘導体の腫瘍の増殖抑制効果。
(A)マウス皮下に移植したガン細胞の体積変化。EGCG-C16投与群でガン細胞の増殖が優位に抑制された。
(B)ガン細胞移植1ヵ月後のマウスから採取したガンの肉眼所見。EGCG-C16投与群では腫瘍サイズが明らかに小さいことが確認できる。

用語解説

  • 茶カテキン
    茶から抽出されるポリフェノール群の名称。エピカテキン、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレートなどがある。抗酸化作用、抗ガン作用、抗アレルギー作用、抗菌作用など多様な生理作用が報告されている。
  • リパーゼ
    脂肪酸エステルを脂肪酸とアルコールに 加水分解する酵素。その逆反応の脂肪酸とアルコールを反応させて脂肪酸エステルを合成することもできる。
  • 脂肪酸
    長鎖炭化水素の1価のカルボン酸
  • 抗ガン剤
    悪性腫瘍の化学療法に用いる薬剤。様々な種類があるが、一般に副作用が強いとされているが、ガン細胞への特異性を持たせることで副作用を抑える研究が盛んに行われている。
  • 上皮増殖因子受容体(EGFR)
    EGFRは様々な起源の細胞膜状に発現するタンパク質で、上皮増殖因子(EGF)が結合することにより活性化して細胞を増殖させたり分化させたりする。一方、EGFRは様々な悪性腫瘍で過剰発現が見られ、このEGFRの活性化を特異的に阻害する抗ガン剤が研究開発されている。 

 

  • 京都新聞(11月27日 2面)、科学新聞(1月1日 12面)、産経新聞(11月27日 24面)、日刊工業新聞(11月27日、34面)、毎日新聞(11月27日 3面)および読売新聞(11月27日 31面)に掲載されました。