太陽磁場活動望遠鏡(SMART)が捉えた太陽フレアに伴う3連続衝撃波

太陽磁場活動望遠鏡(SMART)が捉えた太陽フレアに伴う3連続衝撃波

2008年9月1日


左から柴田 一成 教授、成影 典之 研究員

 柴田 一成 理学研究科附属天文台 教授らの研究グループは、JAXA宇宙科学研究本部 成影 典之 研究員とともに本学飛騨天文台の太陽磁場活動望遠鏡(SMART)を用いて、太陽系で最大の爆発現象である太陽フレアに伴う3連続衝撃波を初めて発見し、このデータを解析することで衝撃波の発生メカニズムを解明する有力な証拠を得ました。

 この発見は、2008年9月1日発行予定のアストロフィジカル・ジャーナル・レター誌に掲載予定です。(著者は以下のメンバー) なお、筆頭著者の成影博士は、京都大学大学院理学研究科附属天文台で博士号を取得し、現在は、宇宙航空研究開発機構のポスドク研究員です。柴田教授は当時の指導教員で、本研究は博士論文の一部となった研究を、その後、さらに発展させて完成したものです。

  • 成影 典之(なるかげ のりゆき)/宇宙航空研究開発機構
  • 石井 貴子(いしい たかこ)/京都大学大学院理学研究科附属天文台
  • 永田 伸一(ながた しんいち)/京都大学大学院理学研究科附属天文台
  • 上野 悟(うえの さとる)/京都大学大学院理学研究科附属天文台
  • 北井 礼三郎(きたい れいざぶろう)/京都大学大学院理学研究科附属天文台
  • 黒河 宏企(くろかわ ひろき)/京都大学大学院理学研究科附属天文台
  • 柴田 一成(しばた かずなり)/京都大学大学院理学研究科附属天文台
  • 秋岡 眞樹(あきおか まき)/情報通信研究機構

研究成果の概要

 太陽フレアは、太陽系で最大の爆発現象です。爆発が起これば、衝撃波が発生することは想像できると思います。太陽でもフレアが発生すると、しばしば衝撃波が発生し、コロナ中を伝搬します。しかし、衝撃波の伝搬の様子を観測した例は非常に少ないのです。

 京都大学・飛騨天文台の太陽磁場活動望遠鏡(SMART)は、太陽表面のわずか上空の彩層と呼ばれる層から出るHα線という光を観測しています。太陽フレアによって衝撃波が発生すると、衝撃波はコロナ中を伝搬しますが、その際、彩層を押さえ付けながら伝搬することがあります。その押さえつけられた場所は、衝撃波の速さで移動して行き、Hα線で波が伝わるように観測されます。この現象は1960年代に発見され、発見者の名前にちなんで「モートン波」と呼ばれています。つまり、モートン波は、衝撃波が伝わっていく様子を示しています。我々は京都大学・飛騨天文台の太陽磁場活動望遠鏡(SMART)を用いて、世界で初めて3連続で発生したモートン波を発見しました。この3連続モートン波は、2005年8月3日に観測されたもので、このデータを解析することで、次の3つのことが分かりました。

  1. 3連続で発生したモートン波(衝撃波)を初めて発見しました。この発見は、観測能力(空間分解能力、波長分解能力、時間分解能力)の優れた、最新の太陽磁場活動望遠鏡(SMART)を用いて初めて行うことができました。従来の望遠鏡でも、このフレアを観測していましたが、3連続のモートン波を観測することは出来ていませんでした。このことは、今まで考えられていた以上の頻度で衝撃波が発生している可能性があることを意味しています。
  2. 2つの衝撃波が合体する様子を初めて観測しました。1番目に発生した衝撃波の伝搬速度は遅く、2番目に発生した速く伝搬する衝撃波に追いつかれ、2つの衝撃波が合体しました。そして、合体により衝撃波の強さが強くなったことが電波のデータからわかりました。
  3. 3つのモートン波(衝撃波)の発生には、瞬間的なエネルギーの解放と、フィラメントの噴出が強く関係していることが分かりました。フィラメントとは、冷たいプラズマガスの塊で、太陽の磁場に蓄えられたエネルギーが解放される際に、噴き出すことがあります。今回、3連続のモートン波が観測されましたが、各々のモートン波の発生時刻には、瞬間的なエネルギーの解放が観測されていました。そして、各々のモートン波に対応して、フィラメントも3度噴出しており、それらの噴き出す方向や速度は、対応するモートン波の伝搬した方向や速さと関係していることが分かりました。これまで、モートン波の発生メカニズムについては、はっきりと分かっていませんでしたが、今回の発見により、フィラメント噴出がモートン波を発生させているという説を立てることができました。

論文の図とその解説

図1: 3連発モートン波の伝搬の様子

 赤色+印が1発目、緑色+印が2発目、青色+印が3発目のモートン波の波面をそれぞれ示している。図の上の数字は、それぞれのデータの観測時刻である。およそ10分間に、3つの衝撃波が連続して発生し、伝搬しているのがわかる。

図2: 3度噴出しているフィラメントの様子

 f1, f2, f3 と3つのフィラメントが噴出しているのがわかる。矢印の色は、フィラメントが噴出している方向を示している。図の上の数字は、観測時刻。

図3: 3連発モートン波の時間発展を示したグラフ

 横軸は時刻。c のグラフは、縦軸がフレア地点からの距離で、各時刻でのモートン波の波面の位置が◇で示してある。赤色が1発目、緑色が2発目、青色が3発目のモートン波の波面の位置。このグラフを見ると、1発目のモートン波(赤色◇印)に2発目のモートン波(緑色◇印)が追い付いている様子がよくわかる。+印は噴出したフィラメントの位置を示しており、フィラメントも3度噴出しているのが分かる。色は、噴出の方向を示しており、図2の色と対応している。d は電波の強さを表したもので、1発目と2発目のモートン波が合体した時刻に、強さが増しているのが分かる(矢印A)。また、3発目の衝撃波(色◇印)と最初に噴出したフィラメント(青~緑色の+印)がぶつかった瞬間にも、電波の信号が強くなっているのがわかる(矢印B)。
 

  • 朝日新聞(9月2日 26面)、京都新聞(9月2日 23面)、産経新聞(9月2日 27面)、日本経済新聞(9月2日 34面)および毎日新聞(9月2日 3面)に掲載されました。