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微生物による高等植物アルカロイドの生産:ケシアルカロイドの微生物生産の可能性

2008年5月20日


左から生命科学研究科の佐藤文彦 教授、大学院生の竹村知也氏

 佐藤文彦 生命科学研究科教授らの研究グループは、南 博道石川県立大学助教らの研究グループと共同で、イソキノリンアルカロイド生合成の重要な中間体であるレチクリンを簡単な基質であるドーパミンから試験管内において生産する方法を確立し、この研究成果が、米国科学誌 「米国科学アカデミー紀要 (Proceeding of the National Academy of Sciences USA (PNAS))」 の電子版に掲載されました。

研究成果の概要

 植物はでんぷんやセルロース等の高分子化合物のみならず、様々な低分子化合物を生産します。これらの低分子化合物は香辛料・精油や染料などの食材・工業原料として使われるばかりでなく、生薬など医薬品としても使われています。一方、多くの薬用植物は、栽培が困難であったり、栽培に長い年月がかかるなどの問題があり、また、化合物を工業的に化学合成するには、立体異性の問題等、安価に作る上でいくつもの問題がありました。京都大学生命科学研究科全能性統御機構学分野では、これまでに、細胞培養法を用いた有用医薬品生産や、分子育種的手法を用いた代謝工学による物質生産を試みてきましたが、今回、同分野佐藤文彦教授らと石川県立大学の南 博道助教らのグループにより、さらに発展させた手法が開発されました。すなわち、植物の有用物質代謝系を微生物細胞内に再構築するとともに、部分的な改変を加えることによりイソキノリンアルカロイド生合成の重要な中間体であるレチクリンを簡単な基質であるドーパミンから試験管内において生産する方法が確立されました。レチクリンからは、鎮咳剤であるコデインや鎮痙剤であるパパベリン、抗菌・抗炎症剤であるベルベリン等の有用イソキノリンアルカロイドが生合成されます。本研究ではレチクリンの試験管内生合成にとどまらず、さらに代謝酵素 (あるいは代謝酵素を発現する酵母) を組み合わせることにより、動脈硬化防止において重要な役割を果たす HDL(high density lipoprotein)の酸化を防ぐ作用が最近報告されているマグノフロリン、また、ベルベリンあるいはベンゾフェナンスリジンアルカロイド生合成において重要な中間体スコウレリンをドーパミンからレチクリンを介して合成することにも成功しています。

 これらの成功は、従来困難であった植物二次代謝成分、特に、有用イソキノリンアルカロイドの工業的生産と新たなケミカルライブラリーの調製の可能性を示すものであり、グリーンケミストリーの新たな可能性をしめすものです。

これらの成果は、2008年5月20日発行の Proc. National Academy of Sciences, USA, on-line版に掲載されました。

掲載タイトル:Microbial production of plant benzylisoquinoline alkaloids
著者:Hiromichi Minami*, Ju-Sung Kim*, Nobuhiro Ikezawa†, Tomoya Takemura†, Takane Katayama*, Hidehiko Kumagai*, and Fumihiko Sato†  *Research Institute for Bioresources and Biotechnology, Ishikawa Prefectural University, Nonoichi-machi, Ishikawa 921-8836, Japan; and †Division of Integrated Life Science, Graduate School of Biostudies, Kyoto University, Oiwake-cho, Kitashirakawa, Sakyo-ku, Kyoto 606-8502, Japan

用語解説

アルカロイド:

 窒素を含む一群の低分子有機化合物群、モルヒネやベルベリン、アトロピン、キニーネ、カフェイン、ニコチンなどの生理活性物質がふくまれ、有用医薬品としても利用されているものが多い。多くの場合、特有の植物種において、アミノ酸類から生合成される。

分子育種:

 DNAレベルでの改変により生物の性質を改変する技術。遺伝子組換え技術のこと。

代謝工学:

 代謝系において反応速度を律速する酵素を多く発現させる、あるいは、反応系に新たな経路を付け加える、あるいは、反応系を遮断するなどの改変を行うことにより、代謝系を改変し、目的とする化合物を大量に生産する、あるいは、新たに生産する技術。

ケミカルライブラリー:

 生理活性物質のスクリーニング等の目的のために調製された化合物のライブラリーのこと。一般的には、有機化学的手法により大量 (数百から数百万) の化合物が合成され、スクリーニングに利用されている。天然物由来のライブラリーは多くなく、今回の手法の確立は新たな天然物ライブラリー作成の基盤と期待される。

グリーンケミストリー:

 石油化学に依存した従来の有機合成ではなく、植物のもつ代謝機能に依存した化学物質の生産方法

  • 京都新聞 (5月20日夕刊 10面) 、産経新聞 (5月21日 24面) および日経産業新聞 (5月21日 12面) に掲載されました。