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天の川銀河の巨大ブラックホール、300年前の眠りからの目覚め

2008年4月16日

米航空宇宙局(NASA)、欧州宇宙機構(ESA)との同時記者発表について

京都大学宇宙総合学研究ユニットならびに理学研究科の研究者は日本の「すざく」、「あすか」衛星を含む4つのX線衛星のデータ解析を行い、現在活動を止めている天の川銀河系中心の巨大ブラックホール「いて座A*」が、300年前に強烈なX線を放射し、そして消滅したという証拠を発見しました。
この成果が米航空宇宙局(NASA)より記者発表されました(米西部時間4月15日)。また同様の記者発表が欧州宇宙機構(ESA)からも同時におこなわれました。

天の川銀河の巨大ブラックホール、300年前の眠りからの目覚め

NASA発表

日本の天文学者チームが、われわれの銀河系中心のブラックホールが300年前には強烈なX線を放射していたことを、NASA、日本、そしてヨーロッパのX線観測衛星の分析から突き止めた。
この発見は、このブラックホールの謎、「なぜ、銀河系中心のブラックホールが静穏なのか?」という問いに答える。問題のブラックホールは「いて座A*」として知られており、実に太陽の400万倍もの質量を持っている。しかし、そこから放射されるエネルギーは、他の銀河の中心にあるブラックホールと比して、何十億分もの一という微弱なものである。
京都大学の乾達也博士は、「私たちの銀河系中心のブラックホールが、なぜ眠れる巨人なのか、大きな疑問でした。今回、このブラックホールは過去には非常に活動的であったことがわかったのです。」といっている。
日本のX線天文衛星「すざく」と「あすか」、NASAのX線天文衛星「チャンドラ」、そしてヨーロッパ航空宇宙局のX線天文衛星「XMM-Newton」による新しい研究成果は、日本天文学会欧文報告(The Publications of the Astronomical Society of Japan)、特集号で発表される(図1)。
銀河中心領域は、1994―2005年の間、観測が行われ、データ解析の結果、中心のブラックホール近傍、「いて座 B2」として知られる巨大星雲から激しく変動する特有のX線(特性X線という:図2)が発見された。通常、ガスがブラックホールに向かって渦巻きながら落ちるとき(降着という)、ガスは何百万度にもなり、X線を発生する。降着するガスが多ければ多いほどX線も強くなる。
ブラックホールから発したX線が、「いて座 B2」に達するのに、300年がかかる。今、我々が観測していることは、実は300年前の出来事を見ていることである。X線が「いて座 B2」に達すると、そのガス雲の中の鉄の原子と衝突し、内殻の電子をたたき出す。その空席に、外殻の電子が落ち込むと、鉄の原子は特有のX線を発する (図2)。しかし、もとのX線が通過した後は星雲からは特有のX線は放射されない。
「いて座 B2」は10光年の大きさを持つが、驚くべきことは、特有のX線がたった5年の間で激しく変動していたことである。この現象を研究グループは「光のこだま」(light echo)と呼んでいる。「すざく」が観測したX線データはこの「光のこだま」という考え方が正しいことを決定的にした(図3)。
小山勝二教授(京都大学宇宙総合学ユニット長)は「いて座B2が、どのように光り、消えるか、10年間に渡り観測した結果、300年前のブラックホールがどんな活動をしていたのかを時間的に追うことができたのです。つまり、300年前のブラックホールは、現在より百万倍も明るかったはずです。」と言っている。
カリフォルニア工科大学のムノ博士らは、X線天文衛星「チャンドラ」のX線で「光のこだま」を観測し、ブラックホール「いて座A*」がおよそ50年前に強力な爆発を起こしX線が放射した、と報告している。ムノ博士は、「300年前の爆発は、われわれが発見した爆発より10倍も大規模なものだったろう」と言っている。
銀河の中心までの距離は、われわれの地球から2万6千光年である。したがって、現在観測する出来事は2万6千年前の出来事である。小山教授によると、「数世紀前に超新星爆発が起き、それが引きかねとなって大量のガスがブラックホールに落ち込み、ブラックホールを目覚めさせたのかもしれない」という。

ダイジェスト版

天の川銀河系の巨大ブラックホールの目覚め

私たちの天の川銀河系の中心には、モンスターが横たわっている。それは太陽の400万倍もの質量をもつ巨大ブラックホールである。だが、それは眠れる巨人でもある。他の銀河系の中心にあるブラックホールと異なり、私たちのブラックホールは奇妙に静かなのである。日本の天文学者たちのチームが、このブラックホールの謎を解明した。
4つのX線天文衛星のデータ解析の結果、私たちのブラックホールは300年前は、静かだったどころか強烈なX線を放射し、消滅していた、という証拠が見つかった。観測チームの京都大学 乾達也博士によれば、「私たちの銀河系中心のブラックホールが、なぜこのように眠れる巨人として横たわっているのか、私たちは考えあぐねてきましたが、今回、このブラックホールはかつては非常に活動的であったことがわかったのです。」

このブラックホールは、「いて座」の中に位置するため「いて座A*」として知られている。ところが、このブラックホールは大変静かであり、他の銀河の中心にあるブラックホールに比べ、放射のエネルギーは何十億分の一である。しかし、研究チームによると、このブラックホールは3世紀前には、強烈なX線を放射していたという。この発見は、「光のこだま」(light echo)という不思議な現象を発見し、分析して見つかった。
「光のこだま」とは、室内や谷間でおこる「こだま」と似ている。「光のこだま」は、巨大な爆発によって発生したX線が光速で宇宙空間、何十兆キロメートルを300年間進み、「いて座 B2」と呼ばれる巨大星雲にぶつかり「こだま」として反射したものである。X線が星雲にぶつかると、ガスは熱せられて、X線で明るく輝く。しかし、X線が星雲を通りすぎると、X線の輝きも消えてもとに戻る。

「いて座 B2」は、巨大な鏡の役割を果している。この星雲による「光のこだま」は、300年前にさかのぼり、ブラックホールの活動の記録を提供している。観測チームは、1994年から2005年までの間、日本のX線天文衛星「すざく」と「あすか」、NASAのX線天文衛星「チャンドラ」、そしてヨーロッパ航空宇宙局のX線天文衛星「XMM-Newton」から収集されたデータをもとに、この星雲の振舞いを解析した。
観測チームの小山勝二教授(京都大学宇宙総合学ユニット長)は「この星雲がどのように光って、そして消えていくか、10年間にわたり観測し、300年前のブラックホールがどのような活動をしていたかを時間的に追うことができたのです。300年前のブラックホールは、現在より百万倍も明るく、きわめて強力なX線を発していたはずです。」といっている。
銀河の中心まで、われわれの地球より2万6千光年である。したがって、われわれが現在観測するものは2万6千年前の出来事である。地球は、最後の氷河期にあり、人類はまだ洞窟生活をしていた頃である。
それではなぜ、ブラックホール「いて座 A*」は300年前に強力な発光を生じたのか。小山教授によると、「数世紀前に超新星爆発が起き、そのときのガスがブラックホールに大量に落ち込んだ。その結果、一時的にブラックホールを目覚めさせたのかもしれない」という。

天の川銀河系の中心のX線

大質量ブラックホールの300年前の大爆発の「光のこだま」をキャッチ (青い色が「光のこだま」特有のX線、黄色の星印が銀河系中心のブラックホール、いて座A*)

図1

図2

図3

 

  • 朝日新聞(4月16日 9面)、京都新聞(4月16日 1面)、産経新聞(4月16日 28面)および毎日新聞(4月16日 3面)に掲載されました。