細胞における分子1個の回転運動を3次元で検出するナノ量子センサーを実現 -医学と生命科学の発展に幅広く貢献 -

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白川昌宏 工学研究科教授、 五十嵐龍治 量子科学技術研究開発機構 グループリーダー、杉拓磨 広島大学 特任准教授、原田慶恵 大阪大学 教授らの研究グループは、大きさが1万分の1ミリメートル以下のナノサイズの特殊なダイヤモンドをセンサーとして用い、1分子のたんぱく質が回転する動きを捉えることに成功しました。

NVセンターと呼ばれる原子配列の乱れを含むダイヤモンドは、生命現象を精密計測する「ナノ量子センサー」として注目されています。本研究グループはこのセンサーが磁気センサーであるという特徴を巧みに利用し、3次元回転センサーとして利用する新たな技術を開発しました。この技術を用い、これまで顕微鏡では捉えることのできなかった生きた細胞における生体分子の回転運動、例えばATP合成・分解酵素(ATPアーゼ)の回転運動やがん細胞表面の分子が抗がん剤と結合して回転運動に変化が生じる現象を計測することに成功しました。

この技術は、従来捉えられなかった生体分子の位置変化を伴わないわずかな回転運動を観察できるため、生命科学における新たな計測ツールや、薬剤標的たんぱく質の運動を指標とした医薬品のスクリーニング技術として利用されることが期待されます。

本研究成果は、2020年4月14日に、国際学術誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版に掲載されました。

図:ナノ量子センサーを用いた超ミクロ回転の3次元観察法

詳しい研究内容

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1021/jacs.0c01191

Ryuji Igarashi, Takuma Sugi, Shingo Sotoma, Takuya Genjo, Yuta Kumiya, Erik Walinda, Hiroshi Ueno, Kazuhiro Ikeda, Hitoshi Sumiya, Hidehito Tochio, Yohsuke Yoshinari, Yoshie Harada, Masahiro Shirakawa (2020). Tracking the 3D Rotational Dynamics in Nanoscopic Biological Systems. Journal of the American Chemical Society, 142(16), 7542-7554.