最大規模の横断的がんゲノム解析による新規発がん機構の解明 -がんゲノム医療への応用が期待-

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奥野恭史 医学研究科教授は、斎藤優樹 国立がん研究センター任意研修生、古屋淳史 同主任研究員、片岡圭亮 同分野長、宮野悟 東京大学教授らと共同で、これまで最大規模の症例数である6万例(150がん種以上)を超える大規模ながんゲノムデータについて、スーパーコンピューターを用いた遺伝子解析を行い、同一がん遺伝子内における複数変異が相乗的に機能するという新たな発がんメカニズムを解明しました。

本研究における解析によって、PIK3CA遺伝子・EGFR遺伝子など一部のがん遺伝子では複数の変異が生じやすいことが明らかになりました。このように同一がん遺伝子に複数の変異が生じる場合、単独の変異では低頻度でしか認められない部位やアミノ酸変化がより多く選択され、相乗効果により強い発がん促進作用を示しました。特にPIK3CA遺伝子で複数変異を持つ場合は、単独変異よりもより強い下流シグナルの活性化や当該遺伝子への依存度が認められ、特異的な阻害剤に対して感受性を示しました。

これらの結果は、同一がん遺伝子内の複数変異が発がんに関与する新たな遺伝学的メカニズムであることを示しています。本研究により、これまで単独では意義不明であった変異が生じる理由が説明可能となるほか、複数変異は分子標的薬の治療反応性を予測するバイオマーカーにもなり得るため、がんゲノム診療に役立つことが期待されます。

本研究結果は、2020年4月9日に、国際学術誌「Nature」に掲載されました。

図:本研究成果の概略図

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41586-020-2175-2

Yuki Saito, Junji Koya, Mitsugu Araki, Yasunori Kogure, Sumito Shingaki, Mariko Tabata, Marni B. McClure, Kota Yoshifuji, Shigeyuki Matsumoto, Yuta Isaka, Hiroko Tanaka, Takanori Kanai, Satoru Miyano, Yuichi Shiraishi, Yasushi Okuno & Keisuke Kataoka (2020). Landscape and function of multiple mutations within individual oncogenes. Nature, 582(7810), 95-99.

  • 毎日新聞(4月30日 15面)に掲載されました。