理論計算による新設計法で凝集誘起発光色素の開発に成功 -見たい対象だけ光らせる分子イメージング蛍光色素の自在設計-

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鈴木聡 福井謙一記念研究センター 特定研究員、 岩井梨輝 東京工業大学 修士課程学生、小西玄一 同准教授、九州大学、大阪大学、仏・ナント大学の研究グループは、化学反応の経路を予測する理論計算の方法を用いて、凝集誘起発光色素(以下、AIE色素)を設計・合成することで、溶液中では消光し、固体状態で100%に近い発光量子収率を示す色素の開発に成功しました。

AIE色素は、一般的な蛍光色素と逆に、希薄溶液状態では発光せず、固体・凝集状態で強発光する蛍光色素です。この性質を利用して、センサーや分子イメージングなどへの応用が期待されています。本研究グループは、励起状態において大きな構造変化を起こすことが知られている蛍光色素スチルベンの二重結合のまわりを炭化水素鎖で縛った橋かけスチルベンをモデルにして、溶液中で消光する化学反応経路を持つ分子構造を理論計算により探索しました。見つかった色素分子を実際に合成すると、理論計算の予測通りの機能を示しました。

この理論計算による方法は、従来の経験的な構造設計に代わる、AIE色素の簡便かつ強力な設計法であり、今後、情報科学との融合などにより、目的に適合した機能を持つ色素の開発への応用が期待されます。

本研究成果は、2020年 3月26日に、 国際学術誌「Angewandte Chemie」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究で開発した凝集有機発光色素「橋かけスチルベン(n=7)」

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1002/anie.202000943

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/253561

Riki Iwai, Satoshi Suzuki, Shunsuke Sasaki, Amir Sharidan Sairi, Kazunobu Igawa, Tomoyoshi Suenobu, Keiji Morokuma, Gen‐ichi Konishi (2020). Bridged Stilbenes: AIEgens Designed via a Simple Strategy to Control the Non-radiative Decay Pathway. Angewandte Chemie International Edition, 59(26), 10566-10573.