腫瘍組織への血流を介した薬剤評価チップを開発 -オンチップ血管網を利用した新規腫瘍モデル-

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横川隆司 工学研究科教授、梨本裕司 東北大学助教らの研究グループは、三浦岳 九州大学教授、西山功一 熊本大学准教授らと共同で、生体内の固形癌を模したモデル内に血管を誘導し、血流を介した栄養供給が、腫瘍モデルの成長、薬剤評価に与える影響を評価するシステムを開発しました。

腫瘍組織は、その活発な活動を支えるため、周囲から血管を呼びこむことが知られています。

本研究では、本研究グループが過去に報告した、血管を誘導するマイクロ流体デバイスをベースとし、乳癌の腫瘍組織のモデルに、血流を模した流れを有する血管を構築することに成功しました。構築された血管を介して、継続的な栄養供給を行った結果、血流を有しない腫瘍モデルと比較して、有意に腫瘍面積が増加、増殖活性が促進されるとともに、細胞死のマーカーが減少しました。さらに、流れの条件下で、薬剤評価を行ったところ、高濃度の薬剤投与では腫瘍面積の減少が観察できましたが、低濃度の投与では、大きな腫瘍面積の減少は観察されませんでした。一方、静置条件での薬剤投与では、低濃度で腫瘍面積の減少が観察されました。これらのことは、流れによる栄養供給が腫瘍の活動に有利に働いていることを意味します。また血流を模した流れの存在により、腫瘍の薬剤応答性が変化したことから、薬剤評価において流れの影響を考慮すべきであることが示唆されました。

本研究によって開発されたモデルを利用することで、血管が腫瘍組織に与える影響、また逆に、腫瘍組織が血管に与える影響の評価を調査していくツールとして展開出来ます。今後は、様々な腫瘍モデルへ本技術を展開し、新規に開発された薬剤のスクリーニングツールとして社会に貢献していくことが期待されます。

本研究成果は、2019年11月8日に、国際学術誌「Biomaterials」のオンライン版に掲載されました。

図:腫瘍モデルへの血管導入、培養に利用したマイクロ流体デバイス。(左)デバイスの写真(青:チャネル(流路))、(右)血管を構築した腫瘍モデルの模式図。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.biomaterials.2019.119547

Yuji Nashimoto, Ryu Okada, Sanshiro Hanada, Yuichiro Arima, Koichi Nishiyama, Takashi Miura and Ryuji Yokokawa (2020). Vascularized cancer on a chip: The effect of perfusion on growth and drug delivery of tumor spheroid. Biomaterials, 119547.

  • 京都新聞(11月8日 29面)、日刊工業新聞(11月8日 23面)および読売新聞(11月15日 32面)に掲載されました。