ナノサイズのpHセンサーを実現 -生命の謎にダイヤモンドで迫る-

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白川昌宏 工学研究科教授、藤咲貴大 同博士課程学生、五十嵐龍治 量子科学技術研究開発機構グループリーダー、小野田忍 同上席研究員、大島武 同グループリーダーらの研究グループは、生命現象や細胞内環境を精密計測するための超高感度センサーとして注目される「ナノ量子センサー」を発展させ、ナノサイズのリアルタイムpHセンサーを初めて実現しました。

ナノサイズのダイヤモンド(ナノダイヤモンド)を材料とするナノ量子センサーは、細胞内の様々な情報を正確に計測できる極小の高感度センサーです。しかし、生命活動の基盤となる細胞内pHの計測については、有効な手法が見つかっていませんでした。

そこで本研究グループは、ナノダイヤモンド中でセンサーとしての役割を担う「NVセンター」が優れた電気センサーでもある点に着目し、表面の電荷(帯電)が外部のpHに依存して変化する様な化学処理をナノダイヤモンドに施しました。その結果、このナノダイヤモンドの発する蛍光が外部のpHに従って変化することを明らかにしました。これにより、顕微鏡下で生きた細胞内のpHをリアルタイムで計測可能なナノ量子センサーを世界で初めて実現しました。

本技術により生きた細胞内部の状態の変化をモニタリングできるようになれば、がんやパーキンソン病のメカニズム解明など、生命科学分野において幅広い応用が可能です。また、表面の化学構造を変えるだけで様々なセンサーをナノサイズ化できる可能性があることから、新たな産業創出への貢献も期待されます。

本研究成果は、2019年9月20日に、国際学術誌「ACS Nano」のオンライン版に掲載されました。

図:蛍光顕微鏡観察によるナノpHセンサー

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1021/acsnano.9b05342

Takahiro Fujisaku, Ryotaro Tanabe, Shinobu Onoda, Ryou Kubota, Takuya F. Segawa, Frederick T.-K. So, Takeshi Ohshima, Itaru Hamachi, Masahiro Shirakawa and Ryuji Igarashi (2019). pH Nanosensor Using Electronic Spins in Diamond. ACS Nano, 13(10), 11726-11732.

  • 日本経済新聞(10月14日 14面)に掲載されました。