苦味物質が苦味を抑えることを発見 -キツネザルにおける苦味受容の進化-

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今井啓雄 霊長類研究所 教授、糸井川壮大 霊長類研究所・ 日本学術振興会特別研究員、早川卓志 同特定助教(現・北海道大学助教)、橋戸南美 中部大学・日本学術振興会特別研究員らの研究グループは、マダガスカル島に生息するキツネザルの仲間の苦味受容体を解析した結果、苦味を抑える苦味物質があることを発見しました。

本研究では、マダガスカル島で進化してきたワオキツネザル、クロキツネザル、エリマキキツネザルの食べ物が異なるため、苦味受容体の働きをシャーレ上で比較しました。その結果、サリシンという天然の苦味物質については3種とも苦味反応を起こしましたが、構造が少しだけちがうアルブチンという天然の苦味物質についてはワオキツネザルだけが苦味反応を起こして、他のキツネザルでは苦味反応が抑えられました。

日本モンキーセンターでクロキツネザルにサリシンとアルブチンを同時になめさせたところ、サリシン単独では苦味を避ける反応が、アルブチンがあると抑えられました。そこで苦味受容体のアミノ酸配列を比較検討したところ、1か所のアミノ酸の変異が、アルブチンが「インバースアゴニスト」(逆作動薬)となるかどうかを決めていることがわかりました。この変異はキツネザルの祖先で一度起こり、その後、またワオキツネザルで元に戻っているような興味深い進化的挙動を示します。

これまで苦味を抑える物質(インバースアゴニスト)はほとんど知られていませんでしたが、本研究成果は、薬等の苦味を抑えるためのヒントになる可能性があります。

本研究成果は、2019年6月5日に、国際学術誌「Proceedings of the Royal Society B」のオンライン版に掲載されました。

図:キツネザルの苦味に対する反応

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1098/rspb.2019.0884

Akihiro Itoigawa, Takashi Hayakawa, Nami Suzuki-Hashido and Hiroo Imai (2019). A natural point mutation in the bitter taste receptor TAS2R16 causes inverse agonism of arbutin in lemur gustation. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 286(1904):20190884.

  • 京都新聞(6月6日 25面)、産経新聞(6月5日夕刊 6面)および日本経済新聞(6月6日 32面)に掲載されました。