決断の多様性が集団のメリットを高めることを数理統計学的に証明 -人によって異なる決断をすることの大切さ-

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公開日

Juan Wang 医学研究科博士課程学生(研究当時)と山田亮 同教授は、集団における個人の決断の多様性の意義を数理統計学的に検討し、個人が下す決断が多様であることの重要性を数値で示すことに成功しました。

本研究成果は、2018年9月25日に、米国の国際学術誌「PeerJ」のオンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

多様性は人間を含めた生物の基本です。情報に触れてどういう決断をするかにも個人ごとに多様性があり、何かしらの意義があるだろうと考えて研究を始めました。一方、医療の領域では唯一最善の選択肢を調べる研究が盛んです。私たちは、その流れに一石を投じ、決断の多様性の意義、楽天的な人の、天邪鬼な人の存在意義がわかりました。この研究成果は、研究仲間にもなかなか理解してもらえず、完成から2年かかってようやく論文として発表できることになりとても感慨深いです。

概要

2つの選択肢のどちらを選ぶか迷うことは日常的に起こりますが、例えば、病気の治療法についても、珍しい病気や未知の病気の時には、2つの治療法のどちらを選択するべきなのか情報が不足している場合があります。その際に、統計学に従ってどちらの治療法が成功しやすいかを判断することはできますが、それはあくまで確率にすぎず、最終的にどちらの治療法の成功率が高いのかはわかりません。

本研究では、まったく未知の病気が発生し、有効性の不明な2つの治療法があるという仮定のうえで、統計学によって算出される期待治癒率に従って治療法を選択する集団と、それよりも「楽観的な発想をする人」からなる集団とを比較しました。また、「悲観的な発想をする人」からなる集団との比較、さらに、楽観的な人もいれば悲観的な人もいるという想定に基づいた「いろいろな人」からなる集団についても調べ、それぞれの集団について集団全体としての治癒率をコンピュータにより計算しました。

本研究の結果、2つの治療法の治癒率がかなり高い場合には、楽天的な集団の場合に集団全体の治癒率が高くなりました。また、集団が楽天的な人と悲観的な人の混成であるときにも、楽天的な均質集団に認められた特徴がある程度認められることがわかりました。本研究成果は、選択肢に関する情報が不十分な場合には、集団が画一的な選択行動を取るよりも、不均一な選択行動を取ること、つまり決断に多様性がある方が集団にとってメリットがある可能性を示唆するものです。

図:本研究のイメージ図

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.7717/peerj.5677

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/234650

Juan Wang, Ryo Yamada​ (2018). In silico study of medical decision-making for rare diseases: heterogeneity of decision-makers in a population improves overall benefit. PeerJ, 6:e5677.