巻貝が「巻き」を失う進化の過程を解明 -希少なチビアシヤガイ亜科全4種の調査に成功-

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山守瑠奈 人間・環境学研究科博士課程学生と加藤真 同教授は、笠型化した特殊な巻貝の仲間のチビアシヤガイ亜科を調査し、巻貝の貝殻の巻きが消失する要因と、そのときの軟体の変化の過程を世界で初めて明らかにしました。

本研究成果は、2018年8月23日、米国の国際学術雑誌「PLOS ONE」のオンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

本研究は、巻貝が笠型になる過程の形態と生態の変化を詳細に調べたものですが、調査をしながら驚いたのは、ごく近縁な貝が全く異なる環境に住むことでした。脆い岩に掘られたウニの巣穴にしか住まない種類、人間も簡単には近づけないような荒波打ち付ける磯にしか住まない種類。複雑で多様な海岸環境があったからこそ、このような種類は生まれたのだと実感させられます。これからも、多様な生物が暮らせる豊かな海岸環境が守られることを、心の底から願います。

概要

巻貝が環境に合わせて笠型に変形する進化は、長い歴史の中で何度も起こってきました。しかし、「巻き型」と「笠型」の中間にあたる種類がほとんどいないため、巻貝が笠型になった過程は謎に包まれていました。その中で、チビアシヤガイ亜科は巻型から笠型への段階的な種類を含むため、笠型進化の過程を辿れる重要なグループですが、希少種であるため、その生態は今までほとんどわかっていませんでした。

本研究グループは、笠型化した特殊な巻貝の仲間のチビアシヤガイ亜科の国産4種全てを太平洋沿岸で発見し、その生態や形態そして生息環境を詳細に観察することに成功しました。軟体の観察の結果、殻が扁平化する際に、貝殻と軟体を繋ぐ筋肉が劇的に伸長していることがわかりました。また、生息環境を調査したところ、本亜科では波穏やかな環境から荒波打ち付ける環境へ進出したときに、殻が扁平化したことがわかりました。

本研究成果は、長年謎に包まれてきた巻貝の笠型進化の解剖学的な過程を初めて明らかにしたものです。今後は、チビアシヤガイ亜科の遺伝子を詳しく調べるなど、巻貝の「巻き」を作る遺伝子の解明に繋がる研究が期待されます。

図:チビアシヤガイ亜科の巻きの消失過程。スケールは1mm。最下段はそれぞれの生息環境下で撮影したもの。(写真撮影:山守瑠奈)

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0197719

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/234086

Luna Yamamori, Makoto Kato (2018). Morphological and ecological adaptation of limpet-shaped top shells (Gastropoda: Trochidae: Fossarininae) to wave-swept rock reef habitats. PLOS ONE, 13(8):e0197719.