プラズマ誕生の瞬間を観測 -X線自由電子レーザー照射によるプラズマ生成機構を解明-

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永谷清信 理学研究科助教、上田潔 東北大学教授、福澤宏宣 同助教、ローレンツ・セダーバウム ドイツ・ハイデルべルグ大学教授、和田真一 広島大学助教、矢橋牧名 理化学研究所グループディレクター、登野健介 高輝度光科学研究センターチームリーダーらの研究グループは、X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAから供給される非常に強力なX線の照射によって、物質からプラズマが誕生する瞬間を捉えることに成功しました。

本研究成果は、2018年8月2日に、米国の科学雑誌「Physical Review X」のオンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

近年、日本の自由電子レーザー施設SACLAでは高度なX線レーザーを用いた様々な研究が展開されており、本研究でも見られるように、学生や若手の研究者が研究の第一線で活躍している新しい研究分野です。これから科学研究を希望する多くの方々にもこの分野の研究に興味を持っていただけたらと思います。関連研究は基礎物理から生物学まで多岐に渡っており、詳しくは、SACLAのWebサイトなどをご覧ください。

概要

X線自由電子レーザー(XFEL)はわずか10フェムト秒(1フェムト秒は千兆分の1秒)の照射時間という極短パルスを生成する超高強度X線源です。XFELを用いるとこれまでは見ることが出来なかった超高速・超微細な現象を見ることができるため、ライフサイエンスやナノテクノロジー・材料分野をはじめとする幅広い科学技術分野でXFELの利用研究が期待されています。

XFELを物質に照射すると、物質の種類を問わず、プラズマが生成します。XFELの有効利用のためには、このプラズマ生成メカニズムとその時間スケールを知ることが不可欠です。本研究グループは、プラズマの誕生の瞬間に着目し、XFEL照射後、わずか数百フェムト秒の短時間で起こるプラズマ生成過程を観測することに成功しました。

また、理論計算で観測結果を再現し、励起原子(粒子の衝突によってエネルギー持った原子)が、プラズマ生成のごく初期段階におけるエネルギーと電荷の移動に重要な役割を担っていることを明らかにしました。本研究成果により得られた超高強度X線と物質との相互作用が誘起する超高速現象に関する新たな知見は、今後のXFEL利用研究に不可欠だと考えられます。

図:ナノプラズマ誕生のメカニズム

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1103/PhysRevX.8.031034

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/234603

Yoshiaki Kumagai, Hironobu Fukuzawa1,2, Koji Motomura1, Denys Iablonskyi1, Kiyonobu Nagaya2,3, Shin-ichi Wada2,4, Yuta Ito1, Tsukasa Takanashi1, Yuta Sakakibara1, Daehyun You1, Toshiyuki Nishiyama3, Kazuki Asa3, Yuhiro Sato3, Takayuki Umemoto4, Kango Kariyazono4, Edwin Kukk5, Kuno Kooser5,6, Christophe Nicolas7, Catalin Miron7,8,9, Theodor Asavei8, Liviu Neagu8, Markus S. Schöffler10, Gregor Kastirke10, Xiao-jing Liu11, Shigeki Owada2, Tetsuo Katayama12, Tadashi Togashi12, Kensuke Tono12, Makina Yabashi2, Nikolay V. Golubev13, Kirill Gokhberg13, Lorenz S. Cederbaum13, Alexander I. Kuleff13, and Kiyoshi Ueda1,2,* (2018). Following the Birth of a Nanoplasma Produced by an Ultrashort Hard-X-Ray Laser in Xenon Clusters. Physical Review X, 8(3):031034.

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