研究成果

うつ病における脳内炎症の役割の一端を解明しました


2018年07月26日


     成宮周 名誉教授、古屋敷智之 神戸大学教授、北岡志保 同助教、聶翔 同博士課程学生らの研究グループは、ストレスによる抑うつの誘導に自然免疫系による脳内炎症が重要であることを発見しました。

     本研究成果は、2018年7月20日に米国の学術誌「Neuron」のオンライン版に掲載されました。

    研究者からのコメント

     うつ病などの精神疾患は、遺伝素因とともに、環境要因、特に、社会的・心理的ストレスが発症の引き金になります。今回の研究は、普通、細菌やウイルスが引き起こす炎症が、心理的ストレスにより脳内で引き起こされ、それが社会忌避反応といううつ状態の誘導に働くことを示したものです。よく、うつ病は心の風邪と言いますが、今回の発見は、この言葉が単なる比喩でなく実態としてある可能性を示したもので、今後ヒトの精神疾患の理解と新規治療の開発に繋がることを期待しています。この研究は、今回の論文の筆頭著者である神戸大学の北岡助教、聶大学院生、共同責任著者である古屋敷教授が、京都大学の私の研究室に在籍していた時に一緒に始めたもので、今回、大きな意義のある論文に結実したことを嬉しく思っています。

    概要

     これまで、うつ病患者の血液中で炎症性サイトカイン(細胞間のシグナル伝達を担うタンパク質である「サイトカイン」のうち、炎症を促進するはたらきを持つもの)が上昇することなどから、うつ病と炎症との関連が示唆されてきました。しかし、うつ病と炎症の因果関係には不明な点が多く残されていました。

     本研究グループは、うつ病の動物モデルである「反復社会挫折ストレスモデル」(マウス)を用いて、反復的なストレスが抑うつ状態を誘導するメカニズムを調べました。その結果、このストレスが自然免疫受容体である「TLR2/4」を介して、内側前頭前皮質の炎症担当細胞であるミクログリアを活性化し、炎症性サイトカインである「IL-1α」と「TNFα」の発現を介して、内側前頭前皮質の神経細胞の応答性減弱や萎縮、新しいマウスとの関わりを避ける社会忌避行動などのうつ様行動を誘導することを発見しました。一方、TLR2/4欠損マウスでは、これらの炎症性サイトカインの上昇は見られませんでした。さらに、これらの炎症性サイトカインに対する中和抗体を内側前頭前皮質に投与したところ、反復社会挫折ストレスによるうつ様行動が抑制されました。

     本研究成果は、うつ病の病態に脳内炎症による内側前頭前皮質の神経細胞の機能変化が重要であることを示唆し、自然免疫分子を標的とした新たな抗うつ薬の開発につながる可能性を提示しています。

    図:本研究で解明した反復ストレスによる、うつ様行動を担う脳内炎症の働き

    詳しい研究内容について

    書誌情報

    【DOI】
    https://doi.org/10.1016/j.neuron.2018.06.035

    Xiang Nie, Shiho Kitaoka, Kohei Tanaka, Eri Segi-Nishida, Yuki Imoto, Atsubumi Ogawa, Fumitake Nakano, Ayaka Tomohiro, Kazuki Nakayama, Masayuki Taniguchi, Yuko Mimori-Kiyosue, Akira Kakizuka, Shuh Narumiya, Tomoyuki Furuyashiki (2018). The Innate Immune Receptors TLR2/4 Mediate Repeated Social Defeat Stress-Induced Social Avoidance through Prefrontal Microglial Activation. Neuron, 99(3), 464-479.e7.

    • 日刊工業新聞(7月20日 29面)に掲載されました。

    うつ病における脳内炎症の役割の一端を解明しました
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