研究成果

慢性時差環境下での老齢マウスの生存率改善に成功 -シフトワーカーの病態への創薬に期待-


2018年07月20日


     山口賀章 薬学研究科助教、岡村均 名誉教授(薬学研究科特任教授)の研究グループは、時差状態を示さないバソプレッシン受容体欠損マウスは、野生型マウスに比し、慢性的に時差のある環境下でも生存率が上昇することを見出しました。さらに、老齢の野生型マウスにおいても、バソプレッシン受容体の働きを抑制する薬剤を投与することで、慢性時差による死亡率を減少させることに成功しました。

     本研究成果は、2018年7月19日に米国の国際学術誌「iScience」のオンライン版に掲載されました。

    研究者からのコメント

    左から、山口 助教、岡村 名誉教授

     かつて、ヒトは、夜明けと日没という自然の摂理に沿って生活していました。ところが、今や、ヒトが明るさを恣意的にコントロールし、人工的な昼夜環境で、昼夜ヒトは生活しています。20世紀中頃のジェット旅客機の発明による時差も、ヒトが生み出したものです。我々の今回の結果は、人為的な環境下での生活が、いかに危険なものであるのかを警告しているものです。生体リズムは外からは見えない法則で、遺伝子発現で規定され、細胞の代謝や個体機能と密接に結びついた、決して侮ってはならない、重要な時間原理であることを示しているのです。

    概要

     21世紀に入り、利便性を求める24時間社会はますます進行しており、それを支えるシフトワーカー(交代制勤務者)の需要も増大しています。また、長寿社会の到来とともに、高齢者がシフトワークに従事する機会も増えており、その労働衛生が注目されています。

     これまでのマウスを用いた動物実験で、明暗リズムを常に前進させる慢性時差環境下で飼育すると、若年動物では生死にほとんど影響しないのですが、老年動物では死亡率が上がることが知られていました。これは、高齢個体では、体内時計と環境の明暗リズムが同期していない時差の状態が長く続くと健康が障害されることを示唆しています。

     本研究グループは、時差状態を示さないバソプレッシン受容体欠損マウスは、野生型マウスに比し、慢性時差環境下でも生存率が上昇することを見出しました。このマウスは明暗リズムが前進するたびに行動リズムも前進させ、行動と明暗リズムの同期のズレが観察されませんでした。さらに、老齢の野生型マウスにおいても、バソプレッシン受容体の働きを抑制する薬剤を、概日リズムの中枢である視交叉上核に継続的に投与することで、慢性時差による死亡率を減少させることに成功しました。本研究成果により、これまで対処法がなかったシフトワーカーの病態に対する創薬を加速させることが期待されます。

    図:バソプレッシンシグナルを抑制したマウスでは、慢性時差環境下でも死亡率は減少する

    詳しい研究内容について

    書誌情報

    【DOI】
    https://doi.org/10.1016/j.isci.2018.06.008

    【KURENAIアクセスURL】
    http://hdl.handle.net/2433/232691

    Yoshiaki Yamaguchi, Hitoshi Okamura (2018). Vasopressin Signal Inhibition in Aged Mice Decreases Mortality under Chronic Jet Lag. iScience, 5, 118-122.

    • 京都新聞に掲載されました。(4月19日 24面)

    慢性時差環境下での老齢マウスの生存率改善に成功 -シフトワーカーの病態への創薬に期待-
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