乱流が臨床レベルの大量の血小板作製を可能にすることを発見しました

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伊東幸敬 iPS細胞研究所研究生(兼・株式会社メガカリオン主任研究員)、中村壮 同特定研究員、江藤浩之 同教授(兼・千葉大学センター長)らの研究グループは、自治医科大学、慶應義塾大学、名古屋大学、滋賀医科大学、宮崎大学、佐竹化学機械工業株式会社、株式会社メガカリオンと共同で、骨髄や血管内において発生する物理的な乱流が血小板生成の鍵であることを突き止め、大量に高品質の血小板を作製することに成功しました。

本研究成果は、2018年7月13日に米国の科学誌「Cell」のオンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

江藤教授

今回、「層流」対「乱流(Turbulent flow)」の対決という構図を土台に、従来考えられていた層流刺激では生体外での血小板「製造」を成立させるには不十分であったことを証明しました。私たちは、新しい概念を証明する基礎研究の成果を基に、臨床研究までを自分たちで成し遂げたいという強い意思がありますが、その第一歩に繋がる成果と考えています。今後、血小板製剤の産業化レベルでの製造を目指します。

本研究成果のポイント

  • 従来法の静置培養(培養皿)では、大量の血小板を作製することが困難であり、また、作製される血小板のほとんどが凝集の始まった活性化済みの血小板であり、輸血に必要な非活性型の血小板を得ることが難しかった。
  • マウスの生体内観察により、血液の乱流(動きが不規則に絶えず変動している乱れた状態の流体)が巨核球から血小板の生成を促進させることが分かった。

  • 乱流を発生させる縦型培養装置を開発し、さらに乱流エネルギーやせん断応力などの物理パラメータ(変数)を適合させることによって、実際の輸血に必要な量の高品質の血小板作製をすることを可能とした。
  • 可溶性因子であるIGFBP2、MIF、NRDCを検出し、血小板生成メカニズムの一端を解明した。

概要

ヒトiPS細胞を使った生体外における血小板作製技術は、ドナーに依存する献血にとって代わる生産システムとして期待されています。しかし、iPS細胞由来の巨核球から作られる血小板の数は、これまでの生産方法では輸血に必要な量(1千億個以上)には届きませんでした。

本研究グループは、骨髄や血管内において発生する物理的な乱流が血小板生成の鍵であることを突き止め、必要な乱流条件を設定可能な縦型培養装置を開発しました。この装置を用い、同定した物理パラメータを調整することによって、8Lスケール装置から大量に高品質の血小板(1千億個以上)を作製することに成功しました。

さらに、乱流に伴い巨核球からIGFBP2、MIF、NRDCという可溶性因子が放出され、血小板生成を促進していることが分かりました。作製されたヒトiPS細胞由来の血小板を2種類の動物モデルに輸血すると、血小板は体内を循環し、止血などが正常に行われていることが確かめられました。

図:本研究の概要図

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.cell.2018.06.011

Yukitaka Ito, Sou Nakamura, Naoshi Sugimoto, Tomohiro Shigemori, Yoshikazu Kato, Mikiko Ohno, Shinya Sakuma, Keitaro Ito, Hiroki Kumon, Hidenori Hirose, Haruki Okamoto, Masayuki Nogawa, Mio Iwasaki, Shunsuke Kihara, Kosuke Fujio, Takuya Matsumoto, Natsumi Higashi, Kazuya Hashimoto, Akira Sawaguchi, Ken-ichi Harimoto, Masato Nakagawa, Takuya Yamamoto, Makoto Handa, Naohide Watanabe, Eiichiro Nishi, Fumihito Arai, Satoshi Nishimura, Koji Eto (2018). Turbulence Activates Platelet Biogenesis to Enable Clinical Scale Ex Vivo Production. Cell, 174(3), 636-648.e18.

  • 朝日新聞(7月13日 33面)、京都新聞(7月13日 29面)、産経新聞(7月13日 26面)、中日新聞(7月13日 1面)、日刊工業新聞(7月13日 25面)、日本経済新聞(7月13日 38面)および読売新聞(7月14日夕刊 8面)に掲載されました。