神経ネットワークの機能を解明する光遺伝学的操作法を開発 -脳動作原理の解明を目指したバイオテクノロジーの展開-

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植田充美 農学研究科教授、青木航 同助教(兼・JSTさきがけ研究員)、松倉秀典 同修士課程学生、山内悠至 同修士課程学生、横山治樹 同修士課程学生(現・A.T. Kearney社)らの研究グループは、明治大学および中部大学と共同で、神経ネットワークの機能を高速に解明するための新しい光遺伝学的操作法「機能的セロミクス」の開発に成功しました。

本研究成果は、2018年7月10日に英国の学術誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、青木 助教、松倉 修士課程学生、山内 修士課程学生

脳は動物の行動を生み出す中枢であり、多数の神経細胞が相互に繋がりあうことで機能しています。しかしながら、神経ネットワークがどのように行動を生み出すかはわかっていないことが多く、その原因のひとつは、神経ネットワーク機能を網羅的に測定・解析する技術が存在しないことです。そこで本研究では、神経ネットワーク機能を高速に解明する新しい光遺伝学的操作法を開発し、従来存在していた技術的ボトルネックの解消を目指しました。本方法論を用いることで、より深いレベルでの脳機能の解明が可能になると期待されます。

概要

神経科学におけるひとつの目的は、脳が感覚情報を統合して適切な行動を出力するプロセスを理解することです。しかしながら、神経ネットワークは非常に複雑であり、その計算プロセスを理解することは簡単ではありません。

本研究グループは、「機能的セロミクス」(functional cell-omics)、すなわち、複雑な神経ネットワークにおいて、ある任意のニューロンが、ある特定の行動に対してどのような機能を持っているかを網羅的かつ高速に探索することのできる新しい方法論を構築しました。

さらに、この方法を線虫の神経ネットワークに適用し、線虫の産卵行動に影響する神経を迅速に同定することに成功しました。本研究成果は、複雑な神経ネットワークがどのように感覚情報を統合して出力するのかという、神経ネットワーク計算モデルを構築する上で、非常に重要な知見を提供する成果です。

図:従来法と本提案手法の比較

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41598-018-28653-x

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/232644

Wataru Aoki, Hidenori Matsukura, Yuji Yamauchi, Haruki Yokoyama, Koichi Hasegawa, Ryoji Shinya, Mitsuyoshi Ueda (2018). Cellomics approach for high-throughput functional annotation of Caenorhabditis elegans neural network. Scientific Reports, 8(1), 10380.