分子の立体構造から血圧調節の仕組みを原子レベルで解明 -高血圧症の新しい治療法の開発へ-

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浅田秀基 医学研究科特定助教、岩田想 同教授らは、血圧の調節に重要なペプチドホルモンであるアンジオテンシンが結合したアンジオテンシンⅡ受容体の立体構造を明らかにしました。

本研究成果は、2018年7月2日に米国の国際学術誌「Nature Structural & Molecular Biology」のオンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

私たちは、血圧がどのような分子メカニズムで調節されているのかを分子レベルで解明する目的で研究を行ってきました。

血圧は2つのGタンパク質共役受容体という膜タンパク質によって調節されていると考えられていますが、そのうちの1つであるAT 2 Rという膜タンパク質の結晶構造を生理活性ペプチドが結合した状態で決定しました。この構造を決定するためには、結晶化を促進する抗体を作製する技術や、X線回折実験を行うための大型放射光施設の利用など、さまざまな技術を取り入れる必要がありました。しかし、何よりも本研究に携わった方々の尽力なくしてこの結果は得られなかったと思います。

今後はこの結果をさらに掘り下げ、血圧調節の分子メカニズムの詳細を明らかにしたいと考えています。

概要

現在、約1,000万人(平成26年度:厚生労働省)の方が、高血圧性疾患を罹患しています。その年間医療費は約1兆9,000億円(平成26年度)、高血圧性疾患による死亡数は約6,900人(平成26年度)であり、健康長寿社会の実現にとって非常に重要な疾患と考えられます。

アンジオテンシンは血圧を調節する作用を持つ生理活性ペプチド(ホルモン)であり、アンジオテンシンⅡ受容体と結合することで血圧を調節することが知られています。そのため、アンジオテンシン、およびその受容体は高血圧症の治療薬の重要な標的となっています。

本研究グループは、このアンジオテンシンが結合したアンジオテンシンⅡ受容体について、抗体フラグメントとの複合体を形成させることで結晶化に成功し、その立体構造を世界に先駆けて明らかにしました。

本研究成果は、血圧の調節がどのように行われているかを原子レベルで明らかにすることで、高血圧症に対する理解をより深め、さらに新しい治療法開発への道を開くことが期待されます。さらに、アンジオテンシンⅡ受容体を標的とした疾患に対して、その構造情報を基にリード化合物の探索、いわゆる「構造に基づく創薬」(Structure Based Drug design; SBDD)を可能にするものと期待されます。

図: アンジオテンシンと受容体の結合の様子

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41594-018-0079-8

Hidetsugu Asada, Shoichiro Horita, Kunio Hirata, Mitsunori Shiroishi, Yuki Shiimura, Hiroko Iwanari, Takao Hamakubo, Tatsuro Shimamura, Norimichi Nomura, Osamu Kusano-Arai, Tomoko Uemura, Chiyo Suno, Takuya Kobayashi, So Iwata (2018). Crystal structure of the human angiotensin II type 2 receptor bound to an angiotensin II analog. Nature Structural & Molecular Biology, 25(7), 570-576.