特定の場所の遺伝子を活性化できる新しい分子を開発

ターゲット
公開日

ガネシュ・パンディアン・ナマシヴァヤム 高等研究院物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)助教、杉山弘 同連携主任研究者(兼・理学研究科教授)、谷口純一 理学研究科博士課程学生(現・理化学研究所博士研究員)らの研究グループは、人工的に狙った場所の遺伝子を活性化できる分子を新たに開発しました。

本研究成果は、2018年5月25日に米科学誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版で公開されました。

研究者からのコメント

左から、パンディアン助教、杉山連携主任研究者

今回開発したBi-PIPは、天然のアセチル基と同様ブロモドメインによって読まれるため、実際のヒストンコードと同じような機構ではたらくことができます。これに加えて、(1)ブロモドメインへの結合力が天然のアセチル基よりも強いこと、(2)人工的な化合物であるため生体内での分解を受けにくいこと、(3)PIPの構造を変えることで任意のDNA配列を狙えること、といった利点を持っています。今後の展開として、Bi-PIPはヒストンコードや遺伝子活性の制御異常が引き起こす病気の治療薬や、再生医療研究へ応用される可能性があります。また本研究と同様のアイデアにより、他のさまざまな人工ヒストンコードの開発も期待されます。

本研究成果のポイント

  • 染色体中のヌクレオソームという構造の中のヒストン中に存在する、リシンがアセチル化することが、遺伝子活性化を制御している
  • 今回開発した分子によりリシンをアセチル化する作用のある分子を特定の場所に誘導できる
  • これにより、特定の場所の遺伝子を活性化できる。遺伝子活性異常が引き起こす病気の研究に応用が期待される

概要

DNAは「ヒストン」というタンパク質分子に巻きついて、「ヌクレオソーム」という構造体を形成しています。ヒストンには細い毛のような突起がいくつもあり、その突起中に「リシン」というアミノ酸が存在します。人為的に、狙った場所のリシンをアセチル化することができれば、任意の場所の遺伝子を活性化することができ、病気の治療や再生医療研究への応用が期待されます。しかし、それを可能にする薬剤はありませんでした。

今回、本研究グループは、P300と呼ばれるタンパク質に含まれる領域「ブロモドメイン」に結合する分子「Bi」と特定のDNA配列に結合する分子「PIP」を組み合わせることで、狙ったDNA配列へ配置可能な「Bi-PIP」という分子を開発しました。Bi-PIPは、PIPの部分で標的のヌクレオソームのDNAに結合し、Biの部分でP300中のブロモドメインと結合します。その結果、P300中に同じく含まれるHATによって、そのヌクレオソーム内のヒストンがアセチル化され、遺伝子を活性化します。

本研究では、標的のヌクレオソームと標的でないヌクレオソームに対して、Bi-PIPとP300を作用させると、標的のヌクレオソームのヒストンのみがP300によりアセチル化を受けることを見出しました。これは、標的のヌクレオソームにBi-PIPが結合し、そこにP300が結合して作用したことを示します。また、Bi-PIPをヒト細胞に投与すると、標的配列の領域でアセチル化を促して遺伝子が選択的に活性化しました。

図:本研究のイメージ図(制作:高宮泉水 iCeMS特定助教)

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1021/jacs.8b01518

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/243836

Junichi Taniguchi, Yihong Feng, Ganesh N. Pandian, Fumitaka Hashiya, Takuya Hidaka, Kaori Hashiya, Soyoung Park, Toshikazu Bando, Shinji Ito, Hiroshi Sugiyama (2018). Biomimetic Artificial Epigenetic Code for Targeted Acetylation of Histones. Journal of the American Chemical Society, 140(23), 7108-7115.