研究成果

内在性レトロウイルスを抑え込む普遍的な仕組み -抑制性ヒストン修飾の体細胞での機能を解明-


2018年05月17日


     竹本経緯子 ウイルス・再生医科学研究所助教、加藤雅紀 理化学研究所協力研究員(現・生命医科学研究センター上級研究員)、眞貝洋一同主任研究員らの研究グループは、哺乳動物の体細胞で内在性レトロウイルス(ERV)の発現を抑制する普遍的な仕組みを明らかにしました。本研究成果は、ERVの発現が引き起こす自己免疫疾患などの原因解明に役立つと期待できます。

     本研究は、2018年4月27日に、国際科学雑誌「Nature Communications」に掲載されました。

    研究者からのコメント

     ヒトやマウスのゲノムには、転移因子を起源にもつレトロトランスポゾンと呼ばれる繰り返し配列が大量に存在します。ゲノムの機能を安定に保持するためには、レトロトランスポゾンを制御することが重要ですが、種類が多く、それぞれが膨大なコピー数をもつため、抑制機構についての研究は容易ではありませんでした。

     今回、私たちはヒストンメチル化酵素が内在性レトロウイルスの転写活性を抑制している機構の一端をマウスの細胞を用いて明らかにし、ヒストンメチル化酵素が幹細胞のみならず体細胞でも内在性レトロウイルスの抑制に必須であることを示しました。

     内在性レトロウイルスは強力な転写活性をもっていますし、発現するとインターフェロン反応を引き起こすことから、ガンや自己免疫疾患との関連も示唆されます。寝ている子を起こさないことに生物は多大な労力をかけているわけですが、長い進化の時間共存を続けていることには意味があるのかもしれません。メチル化などのエピジェネティックなゲノム制御や、ヒストンメチル化酵素と転写因子をつなぐ機構についてさらに理解を深めていきたいと思っています。

    概要

     哺乳動物のゲノムの中で、内在性レトロウイルス(ERV)由来の配列は約10%存在します。ERVの異常な発現は、近傍遺伝子の発現への影響や、ERV由来RNAに対する免疫応答反応を引き起こします。体細胞におけるERVの抑制には、DNAのメチル化が重要な役割を果たしています。

     本研究グループは、ヒストンの9番目のリジンのトリメチル化(H3K9me3)修飾を担うヒストンメチル化酵素Setdb1遺伝子をさまざまな種類のマウス体細胞でノックアウトし、ERVの脱抑制を網羅的に検証しました。その結果、Setdb1ノックアウト体細胞ではERV領域のH3K9me3修飾が一様に低下しますが、それぞれの細胞に特徴的なERVの種類が脱抑制することが明らかになりました。また、DNAのメチル化はERVの抑制には限定的であること、組織特異的な転写因子がERVの発現に重要であることが分かりました。本研究により、H3K9me3は従来の見解と異なり、どの細胞種においても普遍的な抑制エピゲノムとしてERVの抑制に寄与する可能性を提示しました。

    図:本研究で提唱したモデル

    詳しい研究内容について

    書誌情報

    【DOI】https://doi.org/10.1038/s41467-018-04132-9

    【KURENAIアクセスURL】http://hdl.handle.net/2433/231147

    Masaki Kato, Keiko Takemoto, Yoichi Shinkai (2018). A somatic role for the histone methyltransferase Setdb1 in endogenous retrovirus silencing. Nature Communications, 9, 1683.


    内在性レトロウイルスを抑え込む普遍的な仕組み -抑制性ヒストン修飾の体細胞での機能を解明-
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