ウシ精巣に由来する多能性生殖幹細胞株の樹立 -精子になるはずのものが多能性細胞に-

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公開日

Suyatno 農学研究科博士課程学生、今井裕 同教授らの研究グループは、ウシの精巣に由来する細胞から、種々の組織・器官に分化する多能性細胞としての性質とともに、将来精子となる生殖細胞としての性質をも併せもつ細胞株の作製に成功しました。

本研究成果は、2018年2月20日に学術誌「Molecular Reproduction and Development」にオンライン公開されました。

研究者からのコメント

多能性幹細胞といえばマウスのES細胞がよく知られていますが、それ以外の哺乳動物種の多能性幹細胞は、樹立が困難でよく知られていない存在でした。本研究では、精子の生産を運命づけられている精巣内の未分化な精原細胞からマウスのES細胞に類似した、しかし精子になる能力も残している多能性幹細胞株を体外で作り出すことに成功しました。近い将来、これらの細胞株から体外で精子を生産できる技術が可能になれば、家畜の改良、絶滅危惧種や希少種の保全、ヒトの生殖機能の再生などへの応用が期待されます。

概要

多能性幹細胞は、マウスやヒト以外ではほとんど報告がなく、本研究グループが2015年に報告したウシiPS細胞が唯一のものです。しかし、このiPS細胞は外部から遺伝子を導入することによって多能性を維持している細胞であり、家畜の場合には、外来の遺伝子の存在は応用的に限定されます。

そこで本研究グループは、体を構成する多くの細胞の中から、精巣内に存在しほぼ無限に精子を生産し続ける精原幹細胞に着目しました。本研究グループは、これまでに精子形成が始まっていない未成熟な精巣由来の精原幹細胞から多能性細胞を誘導することを報告してきましたが、成熟した精巣からの多能性幹細胞化の樹立は、マウスなど数種のげっ歯類を除けば、今回が世界初の成果となります。

本研究の最も重要な成果は、精子形成を盛んに行っている異質細胞集団から数が限定的な精原幹細胞を濃縮し、体外で無限増殖可能な体外培養系を確立したことにあります。この系は、ヒトを含む多くの動物種で同様な培養系を樹立するうえでのモデルになり、未だ研究途上にある体外での精子形成誘導培養系開発の糸口になることが期待できます。


図:21か月齢の精巣から回収した未分化精原細胞を培養して得られたコロニー

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1002/mrd.22958

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/230134

Suyatno, Yuka Kitamura, Shuntaro Ikeda, Naojiro Minami, Masayasu Yamada, Hiroshi Imai (2018). Long-term culture of undifferentiated spermatogonia isolated from immature and adult bovine testes. Molecular Reproduction and Developmen, 85(3), 236-249.

  • 毎日新聞(3月7日夕刊 8面)に掲載されました。