イネの種の壁をつくる遺伝子の同定と機能改変に成功 -異種間交配を利用したイネの品種改良に期待-

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小出陽平 白眉センター特定助教(現・北海道大学助教)、奥本裕 農学研究科教授、金澤章 北海道大学准教授、福田善通 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター主任研究員らの研究グループは、突然変異育種法を用いて、イネの種(しゅ)の壁を構成する遺伝子を人為的に改変することに成功しました。

本研究成果は、2018年2月14日に米国科学アカデミー紀要(Proceedings of National Academy of Sciences of the United States of America)に掲載されました。

研究者からのコメント

今回の研究では、突然変異育種法により雑種不稔(ふねん)に関与する遺伝子の機能を改変し、不稔が生じない変異体を得ることに成功しました。イネにおいて雑種不稔は、ある種の植物と別の種の植物が交わらないようにする障壁、すなわち「種の壁」として働いているため、種の壁を部分的に取り除くことに成功したと言えます。

今後、本手法を用いて他の遺伝子についても変異体を得ることで、アフリカイネがもつ有用遺伝子をアジアイネの品種改良に利用することが容易になると考えられます。

本研究成果のポイント

  • イネの品種改良を妨げる「雑種の種(たね)を稔(みの)らせない」遺伝子の機能を、突然変異の誘発により改変
  • イネの雑種の種を稔らせない性質(雑種不稔性)に関わる新たな遺伝子を同定
  • 異種間交配の障害を取り除くことで、新たなイネ品種の育成に期待

概要

イネには日本人の主食であるアジアイネの他に、アフリカイネという種が存在します。このアフリカイネは、アジアイネが持たない、高温などの不良環境に対する耐性を与える有用な遺伝子を持っており、品種育成への利用が望まれています。しかし、アジアイネとアフリカイネの交配によってできた雑種植物には種子が稔らず、子孫を得ることができません。この現象は「雑種不稔」と呼ばれ、アフリカイネを品種改良に利用することを妨げています。

本研究グループは、雑種不稔の原因の一つである S1 遺伝子座に着目し、突然変異を誘発することにより、 S1 遺伝子座による雑種不稔が生じない変異体を得ることに成功しました。この変異体を調べることにより、 S1 遺伝子座は、ペプチダーゼ様ドメイン保持タンパク質と呼ばれるタンパク質を作り出す SSP 遺伝子などの複数の遺伝子で構成されていることが明らかになりました。また、 SSP 遺伝子はアジアイネには存在しておらず、ユニークな進化を経ていることが示唆されました。

今後、この変異体を用いることで、アフリカイネとアジアイネの異種間交配を利用した新たなイネ品種が育成されることが期待されます。

図:アジアイネ(上)、アジアイネとアフリカイネの雑種(中)、アフリカイネ(下)。雑種は籾はあるが稔らない。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1073/pnas.1711656115

Yohei Koide, Atsushi Ogino, Takanori Yoshikawa, Yuki Kitashima, Nozomi Saito, Yoshitaka Kanaoka, Kazumitsu Onishi, Yoshihiro Yoshitake, Takuji Tsukiyama, Hiroki Saito, Masayoshi Teraishi, Yoshiyuki Yamagata, Aiko Uemura, Hiroki Takagi, Yoriko Hayashi, Tomoko Abe, Yoshimichi Fukuta, Yutaka Okumoto and Akira Kanazawa (2018). Lineage-specific gene acquisition or loss is involved in interspecific hybrid sterility in rice. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 115(9), E1955-E1962.