非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)関連疾患の疾患感受性遺伝子を用いたリスク予測 -全ゲノム関連解析によって4つの疾患感受性遺伝子を同定-

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松田文彦 医学研究科附属ゲノム医学センター教授、川口喬久 同特定研究員、岡上武 済生会吹田病院名誉院長らの研究グループは、国内に1,000万人の患者を有する非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の患者902人の全ゲノム関連解析によって疾患関連遺伝子4つを同定し、その遺伝子の組み合わせごとにNAFLDの発症リスク予測を行いました。遺伝的に発症リスクの高い患者を発見し、重点的に治療や生活習慣改善指導を行うことで、効率的な医療が可能になることが期待されます。

本研究成果は、2018年2月1日午前4時に米国の学術誌「PLOS ONE」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、松田教授、川口特定研究員、岡上名誉院長

本研究は世界で最大規模の検体を用いた解析ですが、患者の数はまだ限られており、より信頼性の高い結果を得るためにはさらに多くの検体を用いた再現性の検証が求められます。私たちは引き続き日本人の検体を収集し、解析を継続する予定です。

概要

NAFLDは、現在先進国で最も頻度の高い肝疾患であり、わが国には1,000万人以上の患者がいると推定されています。NAFLDは単純性脂肪肝と非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に分類され、NASHの一部は肝硬変や肝がんに進展します。遺伝的な要素も病気の原因の一つですが、その全容はいまだ明らかになっておらず、また、得られた知見の臨床への応用も十分ではありませんでした。

今回、本研究グループは902人の日本人NAFLD患者の全ゲノム関連解析において、新たな疾患関連遺伝子 DYSF を含む、4つの疾患感受性遺伝子(残り3つは GCKR PNPLA3 GATAD2A )を同定しました。4つの遺伝子を詳しく調べたところ、 GCKR は単純性脂肪肝に、 GATAD2A はNASHに、 DYSF はNASH由来肝細胞がんに、 PNPLA3 はいずれにも関連することが分かりました。

これらの遺伝因子を組み合わせたところ、NAFLDを発症するリスクが最も高い人は最もリスクが低い人に比べて、オッズ比(遺伝因子による病気のなりやすさ)で5.0倍になることがわかりました。また、NAFLDからNASHを発症する場合は4.4倍、NASHからNASH由来肝細胞がんを発症する場合は15.9倍となりました。

図:全ゲノム関連解析の結果

(上段)NAFLDと日本人対照群の比較
(下段)NASH由来肝細胞がんと日本人対照群の比較

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1371/journal.pone.0185490

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/229128

Takahisa Kawaguchi, Toshihide Shima, Masayuki Mizuno, Yasuhide Mitsumoto, Atsushi Umemura, Yoshihiro Kanbara, Saiyu Tanaka, Yoshio Sumida, Kohichiro Yasui, Meiko Takahashi, Keitaro Matsuo, Yoshito Itoh, Katsutoshi Tokushige, Etsuko Hashimoto, Kendo Kiyosawa, Masanori Kawaguchi, Hiroyuki Itoh, Hirofumi Uto, Yasuji Komorizono, Ken Shirabe, Shiro Takami, Toshinari Takamura, Miwa Kawanaka, Ryo Yamada, Fumihiko Matsuda and Takeshi Okanoue (2018). Risk estimation model for nonalcoholic fatty liver disease in the Japanese using multiple genetic markers. PLoS ONE, 13(1):e0185490.

  • 読売新聞(2月18日 24面)に掲載されました。